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2011年4月13日

ヒトES / iPS細胞を用いた生殖細胞への分化誘導研究の実施計画について

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA、所長:山中伸弥、京都市左京区)の初期化機構研究部門の高橋和利講師らの研究グループは、「iPS細胞からの生殖細胞誘導方法の確立」という課題名で、文部科学省に研究計画の届出を行っていましたが、4月8日に研究計画が受理されました。また、現在実施中のヒトES細胞の使用計画「新しい治療法開発に資するヒトES細胞を用いた多能性幹細胞の分化能及び移植安全性に関する研究」(使用責任者:山中伸弥)の変更が、3月9日に受理されています。


 この新規研究計画および使用計画の変更では、下記の二点を主な目的としており、ヒトES / iPS細胞から生殖細胞への分化誘導手法の開発を目指しています。


1)in vitro系におけるヒトES / iPS細胞からの生殖細胞系列への分化誘導方法の最適化
これまでに報告されているヒトES細胞等から生殖細胞を分化誘導した研究では、正常に成熟した生殖細胞は得られていません。そこで、本研究では、適切かつ効率のよい分化誘導法の確立を行います。


2)生殖細胞誘導に最適なiPS細胞樹立法の確立
これまでに、様々なiPS細胞の樹立方法が報告されています(体細胞の由来、多能性誘導因子の組み合わせ、因子導入法)が、同時にこれらの方法の違いによって分化できる細胞の種類や特定の組織に分化する能力が異なることも示唆されています。そこで、ヒトiPS細胞から生殖細胞系列の細胞に分化誘導する研究を本格的に進めるのに先立ち、当該研究に最適なiPS細胞株を選別する方法の構築を行います。


ES細胞(胚性幹細胞)注1およびiPS細胞(人工多能性幹細胞)注2等の多能性幹細胞から生殖細胞注3を分化誘導する研究を進めることで、将来的には不妊症の病因の解明や新しい診断法、予防法、さらには治療法および医薬品等の開発に向けた研究基盤の確立に寄与すると考えています。

なお、本生殖細胞研究はスタンフォード大学のレネー・レイヨ‐ペラ教授のグループと共同で研究を実施します。


【研究の背景】
 これまで、マウスES細胞を分化誘導して作製した生殖細胞(精細胞)が受精を経て、出生後に即死亡するものの、妊娠満期まで成長した胎仔を得ることができたことが報告されています。その一方で、ヒトと同じ霊長類のカニクイザルのES細胞を用いた研究では、数種類の増殖因子を用いて分化誘導を試みた研究が実施され、生殖細胞の指標となる遺伝子の発現がわずかに見られたといった研究結果が報告されています。

 海外ではヒトES細胞を用いた生殖細胞の分化誘導研究が実施されていますが、効率は低く、尾部の欠損による運動能力を持たない精子など、正常に成熟したと呼べる配偶子は得られていないというのが現状です。そのようなことから、成熟した生殖細胞を効率よく分化誘導する方法の確立が求められています。

 また、iPS細胞がES細胞と同じように生殖細胞に分化するかについては、研究の積み重ねが必要と考えられています。

 ES / iPS細胞を用いた生殖細胞の分化誘導研究を行うことにより、これまで研究が困難であった生殖細胞の発生機構に関する知見が得られる可能性があります。また、不妊症の原因の一部には、遺伝的な原因によるものもあります。様々な患者からiPS細胞を作製し、精子及び卵子への分化過程を調べることによって、生殖細胞に起因する不妊症の原因が解明でき、更には治療薬や治療法の開発に大きく寄与すると考えられています。


【生命倫理に関わる内容について】
 試験管内における生殖細胞の創出は、新たな倫理的問題を生じさせる可能性も含んでいます。文部科学省が平成22年5月20日に公布・施行した、「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」(生殖細胞指針)および、平成22年5月20日改正された「ヒトES細胞の使用に関する指針」を遵守して研究を行っていきます。また、研究の進め方については、今後も継続して議論を進めていく必要性があると考えています。


【新規研究計画および、計画変更について】
1)「iPS細胞からの生殖細胞誘導方法の確立」(新規計画)
研究責任者:高橋和利(京都大学iPS細胞研究所 講師)
 今回の研究計画は、昨年12月から京都大学再生医科学研究所ヒト幹細胞に関する倫理委員会(以下、倫理委員会)にて倫理審査が行われました。その後、倫理委員会の指摘事項を反映した研究計画書について書類審査が行われ、その結果、本年3月25日に承認を得ました。その後3月30日に文部科学省に届け出し、4月8日に受理されました。この受理を受けて、研究機関長である山中伸弥iPS細胞研究所長が研究計画を承認し、研究実施を進めることになりました。


<本研究で使用するヒトiPS細胞について>
 本研究計画では、京都大学で既に作製済みの7株のヒトiPS細胞を、研究段階に応じて使用します。このiPS細胞を樹立する際に供したヒト線維芽細胞(HDF)は外国から入手したもので、生殖細胞指針第十七条2項の要件注4を満たしています。上記のヒトiPS細胞は、これまでに多様な方法で詳細な解析を行っており性質が詳しく分かっています。これから研究を進める生殖細胞分化誘導研究に用いるには適した細胞と考えています。


2)「新しい治療法開発に資するヒトES細胞を用いた多能性幹細胞の分化能及び移植安全性に関する研究」(ヒトES細胞の使用計画の変更)
研究責任者:山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所長)
 本研究計画は、ヒトES細胞の新規使用計画として平成22年10月13日に文部科学省に届出が受理された研究計画です。この際の使用計画では、ヒトES細胞を用いた多能性幹細胞の分化能および移植安全性に関する実験を実施し、多能性幹細胞を用いた新しい治療法開発に資することを目的としていました。

 今回の計画変更では、生殖細胞作製研究の追加、外国からの細胞株の追加を行いました。 特に、生殖細胞作製研究の追加により、ヒト多能性幹細胞由来の生殖細胞を用いた不妊症の病因解明を目的とした、ヒトES細胞から再現性の高い効果的な生殖細胞分化誘導系の確立を目指した研究に取り組みます。

 なお、この使用計画の変更に伴う審査は、京都大学再生医科学研究所ヒト幹細胞に関する倫理委員会にて倫理審査が行われ、平成23年1月20日に承認を得ました。その後、3月4日に文部科学省に届け出し、3月9日に受理されました。


<本研究で使用するヒトES細胞について>
 生殖細胞作製研究に使用する4株のヒトES細胞株は、全て外国から入手したものです。これらのヒトES細胞株を生殖細胞作製研究に用いることは、当該国法令又はガイドラインにおいて禁止されていないことが確認されており、ヒトES細胞の使用に関する指針第五条3項–二 の要件注5を満たしています。


【用語解説】
注1) ES細胞(胚性幹細胞)
ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができる。しかし、樹立するためには受精卵を破壊する必要があり、患者自身の細胞から作製することができないため、免疫拒絶の問題が指摘されている。


注2) iPS細胞(人工多能性幹細胞)
皮膚細胞などの体細胞に遺伝子などを導入し、細胞核を初期化することにより作製でき、胚性幹細胞(ES細胞)のように無限に増え続ける能力と体のあらゆる組織細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞。山中教授らの研究グループは、2006年にこの画期的な技術の開発を発表し、生命科学の領域に様々な細胞を無限に作り出すことのできるツールをもたらした。iPS細胞は、受精卵を利用して作られるES細胞と違い、倫理的問題を回避できる。


注3) 生殖細胞
次世代に遺伝情報を繋ぐ役割を持つ細胞。始原生殖細胞を起点とし、ヒトの場合は十数年をかけ、減数分裂を含む非常に複雑なプロセスを経て完成する。プロセスごとに名前はあるが、系列の細胞含めて「生殖細胞」と呼ぶ。


注4) 「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針(生殖細胞指針)」第十七条二項の要件
「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」第十七条では、生殖細胞作製研究において生殖細胞の作製に供することができる細胞が規定されている。二項では、外国から提供される細胞についての規定が記されており、生殖細胞の作製が禁止されていない細胞であることの確認を求めている。


(ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針)
第十七条
生殖細胞作成研究において生殖細胞の作成の用に供することができる細胞(当該細胞がヒトiPS細胞である場合には、当該ヒトiPS細胞の作成の用に供されるヒトの体細胞を含む。この章において同じ。)は、次に掲げるものに限るものとする。
二 外国から提供される場合には、当該外国における法令又はこれに類するガイドライン及び当該細胞の提供に関する条件において当該細胞からの生殖細胞の作成を行わないこととされていない細胞。


注5) ヒトES細胞の使用に関する指針 第五条3項–二の要件
ヒトES細胞の使用に関する指針 第五条では、ヒトES細胞の使用要件が規定されている。特に、第五条3項の二では、外国から提供されるヒトES細胞についての規定が記されており、ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針と同等の基準に基づいて樹立されたヒトES細胞であり、かつ、生殖細胞の作製が禁止されていない細胞であることの確認を求めている。


(ヒトES細胞の使用に関する指針)
第五条
第一種樹立により得られたヒトES細胞の使用は、次に掲げる要件を満たす場合に限り、行うことができるものとする。
3 使用に供されるヒトES細胞は、次に掲げるものに限るものとする。
二 外国で樹立されたヒトES細胞で、ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針と同等の基準に基づき樹立されたものと認められるもの(生殖細胞の作成の用に供される場合には、同指針と同等の基準に基づき樹立されたものと認められ、かつ、当該外国における法令又はこれに類するガイドライン及びヒトES細胞の提供に関する条件においてヒトES細胞から生殖細胞の作成を行わないこととされていないもの)

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