
ニュース・イベント
News & Events
ニュース・イベント
News & Events
CiRAシンポジウム質疑応答
Q&A session
第2回 CiRA一般の方対象シンポジウム 第2部 Q&Aセッション
パネリスト |
山中 伸弥 所長(山中と表記) 髙橋 淳 准教授(髙橋と表記) 長船 健二 准教授(長船と表記) |
---|---|
司会者 | 結野 亜希さん(結野と表記) |
2010年10月2日(土)に開催された、一般の方対象シンポジウム「iPS細胞研究の最前線」において、
講演後、Q&Aセッションを行いました。
最初の約25分間は、参加者から事前に寄せられた質問を司会者に聞いていただき、パネリストが回答しています。
残りの約20分間は、参加者が直接講演者に質問しました。下記の文章は、これらの質疑応答を要約したものです。
結野 |
ただ今より第2部iPS細胞Q&Aセッションを始めます。まずはシンポジウムの申し込みのときに皆さまから寄せられた質問を私の方から先生方にお尋ねします。それでは、まず山中先生にお聞きします。「iPS細胞とES細胞のそれぞれの長所と短所について教えてください」ということです。 |
---|---|
山中 |
ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)は細胞の性質としては非常によく似ています。恐らく培養皿にES、iPSと書き忘れたら、もう区別ができなくなるくらいよく似ています。しかし、由来が違っています。ES細胞は受精卵から作るのに対して、iPS細胞は大人の体の細胞から作ります。この由来の違いが長所にもなり短所にもなります。 |
結野 |
次は、「iPS細胞研究を多くの人の役に立つように進めてほしいと思っていますが、先日テレビ番組で人と動物のキメラ(種が混合したもの?)の誕生や、生殖細胞を作ることも可能で、人工生命の誕生も可能性であるということを知り、少し心配です。研究をどのように進めるかを考える必要があると思ったのですが、山中先生のお考えを教えてください」という質問です。 |
山中 |
iPS細胞に限らず、すべての科学技術には必ずいい面と、悪用しようとすればふさわしくない使い方もあり得ると思います。例えば、包丁は便利な道具ですが、もしこれがなくなったらどれだけ不便になるか、皆さん想像してみてください。たちまち料理ができなくなるし、おいしいご飯が食べられなくなるわけです。ところがナイフや包丁は一歩間違えると、他者を傷つけることにも使われてしまいます。普通の人はナイフや包丁を持ったらおいしいものを作ろうとは思っても、ほかの人を傷つけようとは思わないものです。だからナイフや包丁を皆さんも使っておられる。スーパーでも買えるわけです。 |
結野 |
次に髙橋先生にお聞きします。「iPS細胞やES細胞から、どんな神経細胞でも安定して作ることができるのでしょうか」という質問です。 |
髙橋 |
まず、ES細胞から神経を作ることとiPS細胞から神経を作ることに違いがあるかということですけれども、ES細胞だから神経ができやすい、iPS細胞だからできやすいということはなくて、ES細胞からもiPS細胞からも同じように安定して神経細胞を作ることはできます。 |
結野 |
もう1問お願いします。「海外では中絶胎児の神経細胞を使ったパーキンソン病の臨床研究があるそうですが、そういった研究の治療効果や現状と、iPS細胞を使ったパーキンソン病の臨床研究は、いつ頃から始まると考えればいいでしょうか」という質問です。 |
髙橋 |
欧米では、特にスウェーデン、それからアメリカ、カナダを中心に胎児細胞移植がすでに数百例行われています。先ほどお話ししましたように、あまり重症になりすぎると効果がないのですけれども、いいときには自分で歩けるぐらいの重症度の方にとっては、胎児細胞移植は効果があるということが分かってきています。 |
結野 |
それでは今度は長船先生にお聞きいたします。「1型と2型の糖尿病の、どちらにも細胞移植治療などは有効なのでしょうか」という質問です。1型と2型の糖尿病についても簡単に説明をお願いいたします。 |
長船 |
まず糖尿病ですが、膵臓の中に膵島と呼ばれる細胞の塊が何カ所もあり、その中に血糖を下げる働きを持つインスリンというホルモンを分泌する細胞が含まれています。普段、われわれがご飯を食べますと血糖が上がりますが、それに反応して膵島がインスリンを分泌することにより、血糖が一定に保たれています。糖尿病というのは、簡単に言いますと膵島の働きが悪くなってインスリンの分泌が低下あるいは全くなくなってしまう状態です。 |
結野 |
長船先生、もう1問お願いします。「将来的にiPS細胞を用いた医療技術は、現在の臓器移植の課題を克服して置き換わると考えていいのでしょうか。それとも別の医療として発展し、患者にとっては治療方法の選択肢が一つ増えると考えればいいのでしょうか。医療の将来像をどのように想像されていらっしゃるか教えてください」という質問です。 |
長船 |
まず答えから述べますが、近い将来には、一つ選択肢が増える、つまり、従来型の臓器移植とiPS細胞から作られる細胞を移植する治療法が併用されると考えます。そして、遠い将来には、これは理想でもあるのですが、iPS細胞によって今までの臓器移植が完全に置き換わってくれればと期待しています。その目標ために毎日全力で研究を頑張っているのです。 |
結野 |
ここまでは事前に寄せられた質問の中から先生方に回答をいただきました。ここからは、今日会場の皆さまから直接質問をお受けして、先生方に回答をいただきます。 |
参加者A |
山中先生にお聞きしたいのですが、今年の5月にサイエンティフィック・アメリカンという雑誌を読んで、マルチポテントとトーティポテントというものがあると聞きました。これらについて教えてください。 |
山中 |
今言われたトーティポテントというのは英語で、日本語では全能性と言われる性質のことです。この全能性というのは、どういう意味かと言うと、1個の細胞をお母さんの子宮に入れると子どもが生まれるという能力です。そういう力を持っているのは受精した受精卵だけでありまして、ES細胞もiPS細胞もその力はありません。ですから、(ES/iPS細胞を)トーティポテント、全能性とは言わずに多能性と言います。いろいろな細胞にはなれますが生命、新しい個体を作る力はありません。 |
参加者B |
2006年8月京都大学の山中伸弥教授のチームは、世界で初めてiPS細胞を作り出すことに成功し、発表しました。先生は神戸大学、大阪市立大学、奈良先端科学技術大学院大学、京都大学といらっしゃいまして、先生はどこで山中ファクターのiPS細胞を発想できたのでしょうか。 |
山中 |
iPS細胞の最初の発想というのは、もう随分前の話で、人間のES細胞が作られたのが1998年ですから、そのときから何とか受精卵以外からES細胞ができないかなと。だからそのころは大阪市立大学におりました。それを奈良先端大に行って実際にそういう研究を始めて、京大で最終的に完成したというのが歴史です。 |
参加者C |
成人の体細胞に山中ファクターを振り掛けるとリセットされてどんな細胞にでもなるというのは非常に驚きです。細胞がまだそういうリセットされ得る能力を残しているということは、何かそれが必要だからではないかなという気がするのですけれども、生体の中で、自然な環境でも何か特殊なことが起こると、そのようなリセットされるということも起こり得るものなのでしょうか。 |
山中 |
精子と卵が受精する瞬間にものすごいリセットが起こるのです。精子も卵もすごく複雑に分化しているというか、特殊な細胞なのです。精子は尻尾まであり形も特殊ですが、卵子も実は非常に特殊な状態なのです。それが受精した瞬間にぱっと今までのいろいろなことが消えてしまって、言ってみれば真っ白に近い状態に戻るのです。ものすごいリセットが起こりますから、それはもう自然にも起こることです。受精のときに起こるリセットに比べたら、iPS細胞の作るときに起こるリセットというのはまだまだ部分的にしかすぎないです。そういうことを考えてもやっぱり私たちの生命、私たち人間だけではなくてすべての生命の力というのはものすごいものがあります。、本当に医者も研究者もまだそのほんの一端しか理解していないということを、このiPS細胞研究を通じてあらためて強く実感しています。 |
参加者D | 僕は脊髄損傷になってしまって胸から下が全く感じないし動きません。再び歩くためにトレーニングを毎日8時間しています。 将来iPS細胞技術がもし確立したときに、まだ体が何も問題が起きていないとして(移植を)受けられるのかどうかをお聞きしたいです。 |
山中 |
私ももともと整形外科医でありますし、私もラグビーをしておりましたので、自分に起こってもおかしくなかった怪我ですので、本当に何とか脊髄損傷の治療にも貢献したいという思いは強くあります。 |
参加者E |
遺伝子三つか四つを用いて細胞を初期化できるということですが、それを二つだけに、あるいは一つだけにしたときに分化の途中の段階まで進んでしまうのでしょうか。途中まで進んだところまで巻き戻してやった方が効率がいいのではないかと思うのですが。また、将来的に巻き戻しと分化というのを同時にできるような方法が見つかりそうなのか教えていただきたいと思います。 |
山中 |
私たちが四つの遺伝子で初期化できるということを報告してから、世界中の研究者が競って四つを三つに、三つを二つに、二つを一つにしたということを行いました。結局今多くの研究者が考えているのは、因子を少なくすると初期化が不完全になってしまって、非常に質にばらつきが出てしまって結局よくない。むしろ今はもっと因子を増やしてでも完全にES細胞と同じ状態にできるか、どうしたら確実にばらつきを少なく完全にできるか、そちらの方向に研究はシフトしていると思います。 |
参加者F |
(iPS細胞研究推進のために)私どもが協力できるようなことがあるのであれば本当に喜んでお手伝いさせていただきますので、その予算の実態を教えていただきたいと思います。 |
山中 |
国からは大変手厚い支援をしていただいております。来年度に関しては一部が政策コンテストということになっております。そのコンテストというのは、一般の方がいろいろな政策を見て、どれを今後推進するべきだという国民の意見を聞くということだと思いますので、ぜひその政策コンテストをウェブ等で行っていただいて、これと思われる研究についてぜひ意見を言っていただけたら思います(「政策コンテスト」への意見募集は終了しました)。 |
参加者G |
私はALS患者の家族の者です。現在ALSはほとんど治療がありません。ちょっと見放されたような状態だと思うのです。それでiPS細胞は、ALSの症状が進んだ場合でも効果があるのかというか、期待できるのかということをお聞きしたいと思います。 |
山中 |
私たちはALSを含めて、難病の患者さんを決して見放したりはしていません。もう必死になって研究をしています。ただ、残念ながら現段階でALSに関しては、iPS細胞は再生医療で使うというよりは、やはり薬を開発するための道具だと思っています。今一生懸命CiRAでも井上治久准教授が中心になって、たくさんのALS患者さんからiPS細胞を作って運動神経細胞に分化させて研究をしています。世界でもハーバード大学などいろいろなところでやっています。それを使って今薬の開発をしようとしています。今はまだ薬はありません。今化合物のスクリーニングを一生懸命しようとしています。山ほどある化合物の中から探すという操作ですから、いつ頃見つかるかということは予想できませんが、それに向けて本当に最善を尽くしています。ぜひ日本の製薬企業などにも力を貸していただきたい。やはり大学でできる創薬というのは本当に製薬企業から見るとママごとみたいなことしかできませんので、日本にも優れた製薬企業がたくさんございますので、ぜひ力を貸していただいたら何か薬が見つかるのではないかと期待しています。 |
参加者H |
私はパーキンソン病です。最初に臨床試験をされるときに、細胞移植による癌化についてどのようにお考えになるのでしょうか。 |
髙橋 |
細胞移植によって細胞が癌になってどんどん増殖するかという意味のご質問だと思うのですけれども、これはあってはならないことだと考えています。 |
参加者I |
iPS細胞からの臓器の再生というのが将来的な最終目標だと考えているのですが、臓器ごとに異なる再現性というのは一体どんな因子によって決まっているのでしょうか? |
山中 |
受精卵という一つの細胞だったものが、人間の場合だったら10カ月後にはもうすべての臓器をきちっと作りだします。マウスの場合、3週間でそれができてしまうのです。どういうメカニズムで、一つの受精卵から心臓ができ、肝臓ができということを研究する発生学という学問があります。その発生学の研究者たちが何十年間もいろいろな研究をされています。その結果、それぞれの時期で、こういう物質が働いてということが、かなり分かってきております。そのES細胞とかiPS細胞から、膵臓の細胞を作ったり、肝臓の細胞を作ったりというのも、その発生のときに起こる現象をできるだけシャーレの中で再現して、お母さんのお腹の中で起こったことをシャーレの中で再現するというのが、一番今実現性があるのではないかと言われています。 |
参加者J |
11歳の男子の孫がデュシェンヌ型の筋ジストロフィーを患っております。4歳のときに発病し、現在は車いすの生活を送っております。iPS細胞による創薬あるいは治療が可能かどうか、もし可能であるならば何年後ぐらいに始まるかを教えてください。 |
山中 |
将来的には可能になることを目指して今一生懸命研究しています。私たちの研究所の副所長の中畑龍俊教授、桜井英俊講師がiPS細胞からの骨格筋、筋肉の分化という研究を行っております。既に筋ジストロフィーの患者さんからのiPS細胞も作って、何とか創薬もしくは再生医療につながらないかという研究はしておりますが、誠に残念ながら現段階ですぐに何か薬ができているとか、細胞を移植できるとかそういう状態ではありません。 |