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Home › ニュース・イベント › CiRAシンポジウム質疑応答 2018年度

CiRAシンポジウム質疑応答
Q&A session

第11回 CiRA一般の方対象シンポジウム パネルディスカッション

パネリスト 山中 伸弥 CiRA所長・教授(山中と表記)
万代 道子 理化学研究所 副プロジェクトリーダー
(万代と表記)
池谷 真 CiRA准教授(池谷と表記)
司会者 漁 幸恵(漁と表記)

2018年9月25日(火)に開催された、神戸新聞創刊120周年記念 神戸新聞情報文化懇話会・京都大学iPS細胞研究所共催シンポジウム「神戸から拓くiPS細胞の未来」において、講演後、事前に寄せられた質問を中心にパネルディスカッションを行いました。以下の文章はこの質疑応答を要約したものです。

iPS細胞を使った再生医療や創薬研究が一般に普及するまでには、どのくらいかかるのか、また実用化に際しての課題は何か、というご質問です。

山中

再生医療と薬の開発において、少しずつですが、臨床試験、つまり、患者さんに協力いただいて、安全性と効果を慎重に見る段階まで来ています。ようやく臨床の入り口ですので、これから本当に一般的な治療となるまでには、10年とか、それ以上の年月がかかると思います。長い長い研究開発はまだ続きますが、最後まで走りきるように一生懸命頑張りたいと思っています。

課題はたくさんございます。安全であるか、そして効果があるかということも大切ですし、また、これから10年以上の研究開発の間、研究の資金が続くのか、研究を支える人たちの雇用を守ることができるのかという問題もあって、本当に課題は山積みですけれども、一つ一つ課題を克服しながら進み続けたいと思っております。

続きまして、2つ目の質問をご紹介いたしましょう。目は命に関わる病気ではないので軽く見られていると感じます。視力が0.1、0.2の方でも、目が見えやすくなる方法は開発されるのでしょうか、ということです。

万代

再生医療の目標としては、視力0.1がでれば万々歳かなと思っていますが実際には最初はそれもなかなか難しいです。視力0.2、0.3の人でさらに視力が向上するための治療としては、いろんなアプローチで研究がなされています。原因にもよりますが、例えば遺伝的な疾患であれば、ものによっては遺伝子治療も順次治験が始まりつつある状況です。視力0.2、0.3の人でも、少しでも良い視力になるようにということは、眼科医がいろいろなアプローチで目指しているところであると言えます。

今後に期待ということですね。それでは続いて3つ目の質問です。テレビや新聞などで、研究から臨床に入ったと聞きますが、もしその治療を受けたいとき、私たちはどこの病院で受診したらよいのでしょうかというご質問です。

池谷

最初に申し上げておかなければいけないのは、今始まっているのはあくまで治験でありまして、治療ではないということです。治療ということになりますと、山中先生もおっしゃいましたとおり、5年、10年の歳月をかけて安全性や効果を確認し、それをもとに治療法を一般化していくことが必要になります。現在は治験で安全性や効果を確認する段階ということになります。

治験の実施にあたっては、まず、なるべく公的なメディア、新聞や雑誌、あるいはホームページなどを使って、さまざまな情報をオープンに公開し、ご協力のお願いをする。その後、患者さんのリクルートをさせていただき、その中からさらに適合する方を決めます。例えば、別の治療を受けられていて効果が正しく現れるか分からない方は治験への参加をお断りすることもあります。このようなことを含めて、さまざまなプロセスを経て、最後に治験が開始されるに至ります。

現在のところ、FOP(進行性骨化性線維異形成症)に関しては、治験までは来ています。ただ治療という点で申しますと、皆さんが病院に行って普通に受けられる治療になるにはまだ時間がかかると思います。

それでは4つ目の質問ですが、大学受験予備校の職員の方からでございます。iPS細胞に関係する研究、治療を志望している高校生には、進路としてどのようなアドバイスをすれば良いのでしょうか。研究医だから医学部に進むしかないのか、理学部、薬学部ではどうなのか、など質問を受けるそうです。

万代

直接患者さんと接しようと思ったら、やっぱり医者にならないとだめなんですが、治療法を開発する研究をしたいと考えた時には、理学部や薬学部、農学部に加えて、今は研究が非常に専門化していて、AIも治療に関わったりしますので、工学部とか、いろんな入り口があると思います。実際、理研で私が今一緒に仕事をしている中には医者のほうが少ないぐらいで、皆さんそれぞれの専門の技術や知識を持ちよって、治療を作り上げていくということをしています。

ぜひ池谷准教授にもお答えいただいてよろしいでしょうか。

池谷

私自身が研究者を選んだ時に、選んだのが理学部でした。万代先生のおっしゃるとおりでして、人を治療したいと思ったら医者になることを選ぶべきだと思います。私は、自分が治療法を開発したり、あるいは新しい発見をどんどん世に送り出して、それをさらにお医者さまに使っていただく基礎研究をしていきたいと考え、理学部を選びました。基礎研究から臨床をサポートするという立場を選ぶのであれば、医学部以外を選んでも問題ないと思っております。

続いてのご質問は、学部一回生の方からです。研究室での実験は徹夜が続くイメージがあります。私は徹夜が続いて家に帰ることができないのは家族に申し訳ないと感じるのですが、徹夜での実験と家族では、実験を優先するのが研究者としてのあるべき姿となるのでしょうかというご質問ですが、こちらは全員にお答えいただこうと思います。

山中

両方大切です。例えば僕は、自分で実験していた時は、土曜日曜も実験しないとだめなときも多かったです。一方で、研究者は忙しいですが、あまり時間に束縛されないと言いますか、自分で計画を立てられます。そんなにつらい職業ではないし、楽しい職業だと思いますので、ぜひたくさんの人に目指してほしいと思います。

万代

山中先生がおっしゃったように、研究者は非常にフレキシブルに時間が使えます。私は子どもを3人育てています。実験をする時間は、保育園の時間の都合で、どうしてもある程度枠が決められてしまいます。それでもどうしても実験したいときはシッターさんを雇ったりしながらしていました。実験に時間をかけられる人には、どうしても物理的にかなわないところがあるんですが、その分、時間をなるべく有効に使うよう心がけていました。例えば、実験室に入る前には行ったら何をするかを全部考えながら行って、行ったらすぐスタートするなど、時間の使い方は工夫していたと思います。

一方で、研究がうまくいかないときには、家庭が気分転換になります。逆に、家庭内がいろいろややこしいときには実験が楽しいこともあったりするでしょうし、気分の切り替えという意味でも、バランス感覚を持って研究をしていただいたら良いのではないかと思います。

池谷

実際に徹夜はありますが、毎日というわけではなくて、ここぞという時だけですね。時間のマネジメントは比較的、自由にできます。実は、家族が今日聞きに来てくれているんですが、あえて誤解を恐れずに言うのであれば、趣味と思ってほしいと思っています。例えば、釣りが趣味の人は、家族との時間も大切にしつつ、どうしても釣りをしたかったら、家族が寝ている間に朝に釣りに行って、朝ご飯までに帰ってくるとか努力をすると思うんです。やるべきことをやって、自由時間にさらに研究する、趣味ということで納得をしていただきたいと思っております。

先生方は時間をうまく使われて、ご家族も大切にここまで研究に励んでこられたようでございます。続いてが最後のご質問ですが、本日、学生の方も多く来てくださっておりますので、研究を続けるにあたって大切だと思うことは何かを皆さまにお答えいただこうと思います。

山中

研究だけじゃなくて、何でもそうかもしれませんが、先入観にとらわれずに実験結果を見ることが大切だと思います。特に日本人は、受験戦争を勝ち抜くため、どうしても教科書に書いてあることや先生に言われたことを素直に信じるトレーニングをされてしまうんですが、実際には、教科書に書いてあることや先生の言っていることでも、あとから考えると間違っているということはよくあります。ですから、先入観なく実験結果やそれ以外のいろんな日常の出来事を見るというのがすごく大切だと思っております。

万代

研究をしているとどうしても、目の前のことにとらわれて、だんだん視野が狭くなっていくことがあります。しかし、常に視野を広く持って、実際に今何が必要とされているか、全体的な流れの中で自分の研究がどういう意味を持っているのかということを考えながら研究していくのも大切かなと思います。

池谷

研究に絶対に必要なのは情熱ではないかと思っております。どんな情熱でも、例えば知識欲でもいいですし、あるは患者さんを治したいというものでも構わないですが、それに対して自分の人生をかけられるような情熱がある人が研究者になるべきではないかと思っております。

ありがとうございます。先生方から貴重なお話をいただきました。今回ご紹介した内容以外にも、本当にたくさんのご質問を頂戴しておりますが、その一部のご紹介、ご回答となりましたことをご了承くださいませ。まだまだお話を伺いたいところではございますが、そろそろお時間のようでございます。山中教授、そして万代先生、池谷准教授、本当にありがとうございました。

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