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2012年9月18日
iPS細胞技術に関する特許が日本、米国で成立
記者会見を行う山中教授(左)と
髙須直子知財契約管理室長
京都大学が保有するiPS細胞基本技術に関する特許が、日本で1件、米国で3件、新たに成立しました。この4件のうち、米国特許2件はすでに特許登録されており、残りの2件も、数ヶ月以内に特許登録される予定です。
日本で成立した特許1件(出願番号:特願2007-550210)は、iPS細胞研究所(CiRA)山中伸弥所長の研究グループが世界で初めて樹立した人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)の基本技術に関するものです。
米国で成立した特許3件のうち1件は、山中教授のグループが開発した技術に関する特許(出願番号:12/213,035)です。残りの2件は、2011年1月27日付けで、米国のバイオベンチャー企業iPierian社から京都大学に譲渡された特許(出願番号:12/157,967; 12/484,163)です。
京都大学は、既に日本においてiPS細胞基本技術特許を3件成立させています。これに続き、今回の特許は、4件目の日本特許となります。米国では、これまでに3件のiPS細胞に関する基本技術特許を成立させていますが、新たに成立した特許を加えると、合計6件の米国特許を取得したことになります。
これらの特許4件が成立したことにより、日米両国において、iPS細胞研究や薬剤候補物質のスクリーニングなどの応用研究に、多くの企業が安心して取り組むことができる環境の構築に貢献できると考えています。
京都大学は、一日も早いiPS細胞の医療応用を実現することを目指して、これからもiPS細胞技術の普及や研究の推進に努めてまいります。
【日本特許の概要】
- 出願番号:特願2007-550210
- 特許査定日:2012年8月28日
- 特許番号:未取得(1ヶ月以内に特許登録となる見込み)
- 特許請求の範囲(概要):
(A)特定のOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子およびSoxファミリー遺伝子
(注1)を体細胞に導入する、iPS細胞の製造方法
(ただし、初期化される体細胞において、前記遺伝子のいずれかが発現している場合には、その遺伝子は導入する遺伝子から除いてもよい)
(B)特定のOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子およびSoxファミリー遺伝子(注1)が導入された体細胞を、増殖因子bFGFの存在下で培養する、iPS細胞の製造方法
(ただし、初期化される体細胞において、前記遺伝子のいずれかが発現している場合には、その遺伝子は導入する遺伝子から除いてもよい)
(C)前記(A)または(B)に記載の製造方法によりiPS細胞を製造し、分化誘導する、分化細胞を製造する方法
*注1:特定の遺伝子ファミリー
- Octファミリー:Oct3/4
- Klfファミリー:Klf2、Klf4
- Mycファミリー:c-Myc、N-Myc、L-Myc、T58A(c-Mycの変異遺伝子)
- Soxファミリー:Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、Sox17
- 特許の権利期間: 2006年12月6日から20年間
- 権利の及ぶ範囲:
上記製造方法の実施の他、(A)および(B)においては、この方法で製造されたiPS細胞の使用(iPS細胞の販売やiPS細胞の分化誘導)にも権利が及びます。また、上記(C)においては、この方法で製造された分化細胞の使用(分化細胞の販売や分化細胞を用いたスクリーニング)にも権利が及びます。
【新たに成立した日本特許1件の意義について】
過去に成立していた日本特許3件では、いずれも導入遺伝子がOct3/4, Sox2, Klf4またはOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycに限定されていました。今回成立した特許では、導入遺伝子が特定のファミリー遺伝子まで広く認められました。
更に、その特定の初期化遺伝子が体細胞において発現している場合は、その遺伝子を除く初期化遺伝子を導入する方法も含めて成立しました。例えば、体細胞が既にSox2,Klf4およびc-Mycの3遺伝子を発現している場合、iPS細胞を作製するためにOct3/4遺伝子のみを導入することがあり、これも本特許の範囲内に含まれます。
本特許は、上記で挙げたファミリー遺伝子を用いたiPS細胞の作製方法に加え、iPS細胞の作製および分化誘導の一連の工程により作製された分化細胞を用いた薬剤候補物質スクリーニング等まで、広範囲に権利が及ぶもので、日本国内でのiPS細胞技術を用いた医療応用の研究開発に拍車がかかることが期待できます。
【米国特許の概要】
<米国特許1>・・・・・山中教授グループの技術に基づく特許出願
- 出願番号:12/213,035
- 特許査定日:2012年5月4日
- 特許番号:8,278,104(特許登録日は、2012年10月2日となる予定)
- 特許請求の範囲(概要):
哺乳類の体細胞に、Oct3/4, Klf4及びSox2の3遺伝子をレトロウイルスベクターで導入し、サイトカインの存在下で培養する、iPS細胞の作製方法 - 特許の権利期間:2006年12月6日から20年間
- 権利の及ぶ範囲:
上記作製方法の実施の他、この方法で作製されたiPS細胞の使用(iPS細胞の販売やiPS細胞の分化誘導)にも権利が及びます。
<米国特許2>・・・・・ iPierian社から譲渡された特許出願
- 出願番号:12/157,967
- 特許査定日:2011年12月7日
- 特許番号:8,211,697 (特許登録日は、2012年7月3日)
- 特許請求の範囲(概要):
(A)ヒトの体細胞にOct3/4, Klf4及びSox2の3遺伝子をレトロウイルスベクターで導入し、増殖因子bFGF及びRhoキナーゼ阻害剤の存在下で培養する、ヒト幹細胞の作製方法
(B)ヒトの体細胞にOct3/4, Klf4及びSox2の3遺伝子をレトロウイルスベクターで導入し、HDAC阻害剤と接触させ、増殖因子bFGFの存在下で培養する、ヒト幹細胞の作製方法
- 特許の権利期間: 2008年6月13日から20年間プラス464日目まで。(推定日:2029年9月20日まで)
- 権利の及ぶ範囲:
上記の作製方法の実施の他、この方法で作製されたiPS細胞の使用(iPS細胞の販売やiPS細胞の分化誘導)にも権利が及びます。
<米国特許3>・・・・・ iPierian社から譲渡された特許出願
- 出願番号: 12/484,163
- 特許査定日:2012年6月5日
- 特許番号:8,257,941(特許登録日は、2012年9月4日)
- 特許請求の範囲(概要):
Oct3/4, Klf4及びSox2の3つの遺伝子を含むiPS細胞から分化させた細胞を、薬剤候補物質と接触させ、新薬候補物質の探索や毒性物質の同定する方法 - 特許の権利期間: 2008年6月13日から20年間プラス151日目まで。(推定日:2028年11月11日まで)
- 権利の及ぶ範囲:上記の方法の実施について権利が及びます。
【新たに成立した米国特許3件の意義について】
米国特許1および2は、いずれもiPS細胞作製基本技術に関する特許で、作製方法が類似していたため、2010年12月頃に、米国でインターフェアランス(発明日の争い)に入る可能性があった特許出願です。2011年1月27日付けで、iPierian社が保有していた米国特許2が、京都大学に譲渡されたため、係争が回避されました。このたび、米国特許2は、米国特許1のiPS細胞作製方法に、さらに特定の低分子化合物(特定の酵素の阻害剤)を加えた「選択発明」として成立しました。
米国特許3は、Oct3/4, Klf4,Sox2の3遺伝子を含有するiPS細胞から分化させた細胞を、薬剤候補物質等のスクリーニングに使用できるという特許です。
これらの特許3件が米国で成立したことにより、米国内でiPS細胞を用いた研究や薬剤候補物質の探索に関する研究が進むことが期待できます。