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2016年6月27日
自由診療で幹細胞治療を提供する民間クリニックのウェブサイトを調査
柏原英則 元研究員(当時CiRA 上廣倫理研究部門、現・広島大学)、藤田みさお准教授(CiRA 上廣倫理研究部門)らのグループは、自由診療で再生医療を提供する民間クリニックのウェブサイト情報を調査・分析し、科学的根拠を十分に示していなかったり、患者さんの関心を引くようなマーケティング手法を駆使したウェブサイトが多数存在したことを明らかにしました。本研究成果は、2016年5月24日 (カナダ時間)にカナダ医学雑誌「interactive Journal of Medical Research」にオンライン掲載されました。
幹細胞治療の不適切なマーケティングは、研究者の間でも大きな関心を集めています。なかには、効果や安全性がよく分かっていない治療もあると言われており、非現実的で過剰な期待が形成されてしまうと、大きな失望や幹細胞研究・治療への不信感につながる恐れがあります。
今回発表した論文では、「再生医療等安全性確保法注1」が導入される前の2014年5月に、日本で自由診療の細胞治療を提供する24クリニックのウェブサイト情報を収集、分析しました。
その結果、全体的に、幹細胞治療のメリットを過度に強調する一方で、リスクについて科学的に説明したものはほとんどなく、患者さんなどに偏った印象を与える恐れがある傾向にあることが分かりました。また、どのクリニックのウェブサイトもeヘルス倫理コード2.0注2に規定された最低限の基準を満たしていませんでした。たとえば、基準の中には、客観的な立場で偏りのない情報が提供されているのか読み手が判断できるよう、誰がどういう立場で内容の制作に関わったのかウェブサイト上に記載するというものがありますが、今回調査した中で、記載しているクリニックはありませんでした。その一方で、患者さんの関心を引くような、テレビや雑誌で取り上げられたという情報は数多く記載されていました。
実施されている治療の多くは、がんを含む様々な疾患への治療や美容目的のアンチエイジングとして提供されていました。治療について科学的根拠を十分に示していない記載も多数存在し、また、患者さん個人個人にあわせた治療を提供できると謳っている傾向にありました。このような記載により、臨床研究で十分に検証されていない幹細胞治療であっても、非常に効果的であるかのような患者さんの誤解に繋がり得ることが懸念されます。
現在のところ、ウェブサイトの医療情報について国内では医療広告の規制対象とはならず、eヘルス国際倫理コード2.0もあくまで自主規制です。同様の問題は海外でも指摘されており、今後、国内での規制が進むとともに、国際的に統一された医療情報発信のガイドラインの策定が期待されます。
- 注1. 再生医療等安全性確保法
2014年11月に再生医療等技術の安全性確保と生命倫理への配慮等について施行された法律。
- 注2. eヘルス倫理コード2.0
インターネットで医療・健康に関連する情報やサービスを提供していく際、サイトの運営者が利用者の立場に立って、質と信頼性の確保に努めていくための自主的基準。日本インターネット医療協議会(Japan Internet Medical Association:JIMA)が2007年に作成した。
- 論文名
Evaluating the Quality of Website Information of Private-Practice Clinics Offering Cell Therapies in Japan - ジャーナル名
interactive Journal of Medical Research - 著者
Hidenori Kashihara1, Takeo Nakayama2, Taichi Hatta1, Naomi Takahashi2, Misao Fujita1 - 著者の所属機関
- 京都大学iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門
- 京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金
- 上廣倫理財団
