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2017年3月9日

ヒトiPS細胞を用いた動物性集合胚研究に関する 一般市民および研究者の意識調査

1. 要旨

 澤井努 研究員(CiRA上廣倫理研究部門)、八田太一 研究員(同左)、藤田みさお 准教授(同左)の研究グループは、 ヒトiPS細胞を用いた動物性集合胚注1)研究をめぐる一般市民と研究者の意識調査を実施し、回答者の過半数が、 現在日本で認められている以上の研究を認めるということを明らかになりました。

 この研究成果は2017年3月2日(英国時間)に英国の科学誌「Regenerative Medicine」で公開されました。

2. 研究の背景

 動物性集合胚研究とは、遺伝子操作によって特定の臓器ができないようにした動物の胚に、ヒトiPS細胞など多能性幹細胞を注入して行う一連の研究を指します。 この研究により、将来的に、動物の体内で人の臓器を作製し、移植に利用したり、創薬、病態解明に利用したりすることが期待されています。

 現在日本では、「特定胚の取扱いに関する指針」(以下、特定胚指針)において、 移植用臓器の作製を目的に、動物の胚にヒト細胞を注入し、動物性集合胚を作製することが認められています。 しかし、同指針では、動物性集合胚の作成目的を移植用臓器の作製に関する基礎研究に限っており、 その胚をある一定期間を越えて発生させたり、動物の子宮に戻したりすることは認められていません。

 2013年、生命倫理専門調査会(内閣府、総合科学技術会議)が特定胚指針を見直すことを決定して以降、 特定胚等研究専門委員会(文部科学省、生命倫理・安全部会)が動物性集合胚の研究について議論してきました。 同委員会での審議は現在も継続中ですが、科学的観点からの検討を元に、倫理的・社会的観点からの議論が行われています。 近い将来、規制緩和の方向で関連指針が改正される可能性もあると思われますが、 そうした議論を進めていく上で、これまで当該研究に対する民意の把握は十分に行われていませんでした。

3. 研究結果

 藤田准教授らの研究グループは、2016年に、一般市民とCiRAの研究者を対象に、当該研究に関する質問紙調査を実施しました。 一般市民については、調査会社に登録しているモニターにインターネット上で質問に回答してもらい、回答者数が520人に達した段階で調査を終了しました。 研究者については、CiRAで働く352人の研究者や研究支援者にメールで調査協力を依頼し、そのうち105人から回答を得ました。

 この調査の特徴は、動物性集合胚研究を三つの段階(1.動物の胚へのヒトiPS細胞の注入、2.人の臓器を持つ動物の作製、3.臓器を必要とする人への移植)に分け、 さらに各段階の研究目的を示した上で、どの段階までであれば受け入れられるのかを尋ねた点にあります。 その際、イラストを用いて、研究全体を理解しやすいような工夫もしました(図参照)。

図 動物性集合胚研究の説明

 その結果、動物性集合胚の作製に関しては、80%以上の一般市民が、また90%以上の研究者が認められると回答し、 人の臓器を持つ動物個体の作製に関しても、60%以上の一般市民が、また80%以上の研究者が認められると回答しました。 こうした調査結果は、動物性集合胚の作製に関する調査を行った国内の先行調査と比べても高い許容度を示していますが、 このような調査結果になったいくつかの要因の一つは、研究段階ごとの研究目的を具体的に示したからであると考えられます。

4. まとめ

 本調査では、多くの一般市民、研究者が、現在日本で認められている以上の研究を認めるということが明らかになりました。 しかし、本調査の結果が、直ちに動物性集合胚研究を推進すべきだという主張につながるわけではありません。 当該研究に対しては大きな期待が寄せられている一方で、さまざまな倫理的問題も指摘されており、実際に本調査でも、一般市民や研究者から期待だけでなく懸念が示されました。 質問紙の自由記載では、一般市民、研究者のいずれからも、当該研究で作製された臓器の移植に伴う感染症のリスクや次世代への影響が指摘されました。

 今後、当該研究が社会に広く受容されていくためには、一般市民および研究者の懸念を特定し、それを取り除くことが求められるでしょう。 また、研究の情報発信のあり方として、研究の手順だけではなく、研究目的を具体的に説明することも大事になってくると言えます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    "Public attitudes in Japan towards human-animal chimeric embryonic research using human induced pluripotent stem cells"
  2. ジャーナル名
    Regenerative Medicine
  3. 著者
    Tsutomu Sawai, Taichi Hatta, Misao Fujita
  4. 著者の所属機関
    • 京都大学iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金
  2. 上廣倫理財団
7. 用語説明

注1) 動物性集合胚
多細胞生物の個体発生過程において、受精卵が分裂を開始してある程度経った段階までの、ごく初期の段階にあるものを胚という。特に動物の胚にヒトの細胞(iPS細胞やES細胞など)を注入したものを動物性集合胚と呼んでいる。

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