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2017年11月21日
多能性幹細胞における分化関連遺伝子座の 染色体高次構造と核内配置の同定
ポイント
- 多領域の染色体注1)高次構造を同時に高精度で同定できる手法Multiplexed sprinkerette 4C-Seq (ms4C-Seq)を開発した。
- 分化関連遺伝子座注2)は初期化により核膜から離れ、多能性幹細胞では核内部で共局在していることを示した。
- 多能性を維持する仕組みに染色体の高次構造や核内配置が重要である可能性を示した。
池田宏輝 研究員(CiRA未来生命科学開拓部門)、山本拓也講師(CiRA未来生命科学開拓部門)らのグループは、多能性幹細胞において分化関連遺伝子群が共局在していることを明らかにしました。
染色体の高次構造は細胞の性質を決める遺伝子の働きを調節する一つの要因です。多能性幹細胞では、分化シグナルに応答するために、殆ど発現していない遺伝子でも即座に発現できるような状態である必要があります。研究グループは分化関連遺伝子群の染色体高次構造と核内配置について、体細胞と多能性幹細胞との違いを明らかにしました。さらに、活性化型と不活性化型のヒストン修飾注3)を同時に持つ分化関連遺伝子群が、多能性幹細胞では共局在する傾向があることを示しました。この結果は、染色体高次構造が分化多能性に関連している可能性を示しています。
この研究成果は2017年11月20日(英国時間)に「Nature Communications」で公開されました。
iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞は、様々な体細胞へと分化する能力を持っています。分化を促す刺激を受け取ると、細胞内にある遺伝子の働きが調節されて、それぞれの細胞の特徴が発揮されます。遺伝子の働きを調整する仕組みとしては、ヒストン修飾、染色体高次構造、核内配置などが重要な役割を担っていることが知られています。多能性幹細胞では、分化関連遺伝子群のプロモーター領域注4)において、活性型と不活性型のヒストン修飾が共存する特殊なヒストン修飾(バイバレント修飾)を持つことが知られており、分化刺激に対してすぐに反応するシステムではないかと考えられています。このように、分化関連遺伝子座におけるヒストン修飾に関する知見はあるのですが、それら遺伝子座の染色体高次構造や核内配置についてはほとんど知られていません。そこで研究グループは分化関連遺伝子をコードする領域の染色体高次構造と核内配置の同定を行い、分化関連遺伝子群の制御機構との関わりを調べることにしました。
1. 染色体高次構造の同定
まず複数ある分化関連遺伝子の染色体高次構造を一度に検出するために、ms4C-seq(Multiplexes Splinkerette Chromosome Conformation Capture Combined with high-throughput sequencing)という手法を開発しました。これにより、調べたいある遺伝子(ベイト遺伝子)と近い領域にある染色体の部位が分かります。ヒトiPS細胞を用いて、初期化の前後での染色体高次構造の変化を調べたところ、分化関連遺伝子群の高次構造は初期化前の線維芽細胞(HF)と、iPS細胞(iPSC)とで大きく変化していることがわかりました。
Fig. 1 ms4C-seqを用いた染色体高次構造の同定
調査した代表的なベイト遺伝子(ここではDPPA4、TWIST1、LHX1)と近接している染色体の部位を図式化した。
明るい色の領域が高頻度にベイト遺伝子と近接する部位。ピンク色の▼で示されている部位が初期化により近接しなくなった、
あるいは新たに近接するようになった部位を表す。
2. 核内配置の解析
公開されているデータベースを用いて遺伝子の核内配置を調べると、バイバレント修飾をもつ分化関連遺伝子は、体細胞では核膜側に存在しているものが多いのに対して、多能性幹細胞では核内部側に多いことがわかりました。
Fig.2 分化関連遺伝子の核内配置
3. 分化関連遺伝子は共局在する
様々なベイト遺伝子と相互作用している分化関連遺伝子(バイバレント修飾を持つ遺伝子)の数を調べたところ、分化関連遺伝子の数が多く、分化関連遺伝子同士が共局在していることがわかりました。
Fig.3 相互作用領域における分化関連遺伝子の数
今回の研究から、体細胞では核膜に結合した領域にある分化関連遺遺伝子座が、初期化により核膜から離脱し、核内部でそれら遺伝子座が共局在していることがわかりました。これは染色体の高次構造や核内配置が分化多能性を発揮するために重要な役割を果たしている可能性を示しています。今後は、初期化や多能性幹細胞の分化制御に重要な染色体高次構造や核内配置を同定するとともに、より高品質なヒトiPS細胞の作製やiPS細胞作製期間の短縮、多能性幹細胞の効率的な分化誘導方法の開発につながると期待されます。
- 論文名
"Structural and spatial chromatin features at developmental gene loci in human pluripotent stem cells" - ジャーナル名
Nature Communications - 著者
Hiroki Ikeda1 Masamitsu Sone1,2 Shinya Yamanaka1,3 and Takuya Yamamoto1,2 - 著者の所属機関
- 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
- 京都大学物質--細胞統合システム拠点(iCeMS)
- グラッドストーン研究所
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
- AMED CREST
- AMED 「iPS細胞研究中核拠点」
- JSPS 科研費(23790329、15H01352)
- iPS細胞研究基金
- JSPS 特別研究員DC2(14J01800)
注1) 染色体
DNAとタンパク質(ヒストン)から構成されており、遺伝情報の発現と伝達を担っている。長い鎖状のDNAがヒストンに巻きつけられている。高次構造とは3次元的な構造のこと。
注2) 遺伝子座
染色体内での遺伝子の位置のこと。
注3) ヒストン修飾
DNAを巻きつけているタンパク質であるヒストンに、アセチル基、メチル基などが結合されると、巻きつけ方が変化し、遺伝子の発現が活性化されたり、不活性化されたりする。
注4) プロモーター領域
遺伝子の上流側にある領域で、遺伝子の発現調節に重要な働きをしている部分を含んでいる。