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2019年1月17日
転写因子OVOL1が部分初期化細胞の増殖を抑制することを発見
TROP2が一時的に発現した細胞はiPS細胞へと初期化され、初期化がうまくいかず
TROP2が発現し続けていた細胞はOVOL1によって増殖が抑えられる
香川晴信大学院生(京都大学CiRA未来生命科学開拓部門)、クヌート・ウォルツェン准教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループは、iPS細胞を作製する際に起こる初期化に関わる因子を新たに2つ発見しました。ひとつは転写因子OVOL1で、初期化がうまくいかず、部分的にしか初期化されていない細胞の増殖を抑制します。もうひとつは細胞表面タンパク質であるTROP2で、初期化状態を識別するために用いることができます。
この研究成果は、2019年1月11日(日本時間)に「Stem Cell Reports」でオンライン公開されました。
iPS細胞の作製には、山中因子とよばれる4つの遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)が用いられてきました。ウォルツェン准教授らの研究グループでは、過去に、KLF4の量を他の遺伝子に対して相対的に増やすことで初期化効率が上昇することを明らかにしましたが、そのメカニズムまではわかっていませんでした。
細胞の初期化は、もとになる体細胞がそれぞれの細胞に特有の特徴を失うところから始まり、その後、iPS細胞への変化のプロセスが始まります。しかし、初期化因子を導入しても、多くの細胞はiPS細胞まで完全に変化することができません。このような部分初期化細胞が生じると初期化効率が減少するだけでなく、初期化のメカニズムを解明する際には正確な解析の妨げになります。
KLF4について研究を続けるうちに、今回の論文の筆頭著者である香川大学院生は、より多くのKLF4を細胞に誘導することで、細胞の表面に特徴的なタンパク質TROP2が一時的に発現することを見出しました。
また、iPS細胞に変化することができた細胞のほとんどは、一時的にTROP2が発現した後、多能性獲得の指標の一つであるSSEA-1という細胞表面タンパク質を発現していました。一方、TROP2が発現し続けていた細胞では、部分的な初期化しか起こっていませんでした。これらの結果からTROP2を指標として用いることで多段階的な初期化状態の変化を識別することが可能であることが示唆されました。
TROP2と同時に発現している遺伝子を解析したところ、OVOL1という遺伝子が発現していることがわかりました。CRISPRというゲノム編集技術を用いてOVOL1の発現を抑制したところ、細胞の増殖速度が速くなり、部分的な初期化に終わった細胞の割合が増えました。
これらの結果から、より多いKLF4の導入のもとでは、TROP2が発現している細胞においてOVOL1が活性化しており、OVOL1は特に部分初期化細胞の増殖を阻害していることが示唆されました。
細胞の初期化には多くの遺伝子が関わっていることが知られていますが、現在でも、初期化のプロセスには明らかになっていない部分が多く残されています。今回の研究によりその一端が解明され、OVOL1を含む一過的な遺伝子発現の変化が初期化のプロセスを進めるために大きく関わっていることが示唆されました。今後、さらに初期化に関与する遺伝子のはたらきを解明することにより、iPS細胞の作製効率の向上に寄与することが期待されます。
- 論文名
OVOL1 Influences the Determination and Expansion of iPSC Reprogramming Intermediates - ジャーナル名
Stem Cell Reports - 著者
Harunobu Kagawa1, Ren Shimamoto2, Shin-Il Kim1, Fabian Oceguera-Yanez1, Takuya Yamamoto1, Timm Schroeder2, and Knut Woltjen1,3 - 著者の所属機関
- 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
- Department of Biosystems Science and Engineering (D-BSSE), ETH Zurich, 4058 Basel, Switzerland
- 京都大学 白眉センター
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
- 日本学術振興会 特別研究員奨励費
- 日本医療研究開発機構(AMED)
医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業 戦略的国際共同研究プログラム(カナダ)
「細胞移植治療の実現に向けた細胞アイデンティティー制御」 -
日本医療研究開発機構(AMED)
再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点 - スイス科学財団 (Swiss National Science Foundation)
- 京都大学教育研究振興財団 在外研究長期助成