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2019年1月23日

iPS細胞ストックプロジェクトについての議論

 CiRA上廣倫理研究部門藤田みさお教授と医療応用推進室の田渕敬一准教授が、2018年にJournal of Medical Ethics (JME)誌の10月号に掲載されたCiRAのiPS細胞ストック・プロジェクト注1)に対する赤林らの批判注2)に対し反論を試みた論文が、2019年1月11日(英国時間)にJME誌に掲載されました。

 2018年の論文で指摘された5つの批判に対して、藤田教授らは以下のように反論しています。

 一つ目に、iPS細胞ストック・プロジェクトに国家予算を投じることを決定したプロセスの透明性に問題があると批判されています。しかし、本論文では、日本政府が予算決定する際の公開されたプロセスを具体的に挙げ(外部有識者を交えた政府の政策検討、各省庁による予算事業案作成、財務省による政府予算案とりまとめ、国会審議による議決等)、当該プロジェクト予算も同様の手続きを経ており、透明性に問題はないと指摘しています。

 二つ目に、iPS細胞ストック・プロジェクトで樹立した細胞株を臨床に用いても、免疫型が適合する30-50%の日本人人口しかカバーできないため、直接恩恵が受けられない残り50-70%の人が支払う税金を使うことは不公平だと論じられています。しかし、本論文でiPS細胞ストックはドナーから取得した同意の範囲であれば、免疫型が適合しない患者にも移植可能な高品質で安全性が高い細胞であるという事実を挙げてこれに反論しました。

 三つ目に、国が国民に対してiPS細胞ストック・プロジェクトに関する質疑応答の機会を提供していないとの批判に対して、本論文ではiPS細胞ストック・プロジェクトを含む国家プロジェクト「再生医療実現拠点ネットワークプログラム注3」」で毎年開催される一般市民への公開シンポジウムについて触れ、質疑応答の機会は確保されていると説明しました。

 四つ目に、一部のプロジェクトに国家予算が集中すると、がんや循環器疾患等、他の重篤な難治性疾患に取り組む国力が落ちると批判がありました。しかし、本論文ではiPS細胞ストック・プロジェクトの立ち上げ前後でがん研究の予算配分に大きな変化はない事実や、定期的な予算見直しのシステムの存在を指摘し、特定のプロジェクトへの重点投資によって、他分野を扱う国力が減じない評価システムがすでに存在していることを示しました。

 五つ目に、理化学研究所による疾患特異的iPS細胞バンク注4)は希少難治性疾患に対する創薬に役立つため、iPS細胞ストック・プロジェクトよりも国家予算を投じるに値すると論じました。疾患特異的iPS細胞バンクは確かに重要ですが、本論文ではiPS細胞ストック・プロジェクトで作られた細胞が、希少難治性疾患に対する創薬以外にもあらゆる研究に利用可能であり、国家予算を投じる社会的利益が期待できると指摘しました。

 生命倫理において、よい議論のためには、まず正確な事実把握を行うことが不可欠です。同様に、今回のように開かれた誌上で自由な議論を行うことも重要なことだと藤田教授らは考えています。

論文名と著者
  1. 論文名
    A rebuttal to Akabayashi and colleagues' criticisms of the iPSC stock project
    (赤林らによるiPS細胞ストック・プロジェクト批判に対する反論)
  2. ジャーナル名
    Journal of Medical Ethics
  3. 著者
    Misao Fujita, Keiichi Tabuchi
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所
本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 上廣倫理財団
用語説明

注1) iPS細胞ストック・プロジェクト
HLAホモ接合体の細胞を有する健康なドナーからiPS細胞を作製し、あらかじめ様々な品質評価を行った上で、再生医療に使用可能と判断できるiPS細胞株を保存するプロジェクトです。

注2) 2018年にJournal of Medical Ethics (JME)誌の10月号に掲載されたCiRAのiPS細胞ストック・プロジェクトに対する赤林らの批判

Akabayashi A , Nakazawa E , Jecker NS
Endangerment of the iPSC stock project in Japan: on the ethics of public funding policies.
J Med Ethics 2018;44:700-2 注3) 再生医療実現拠点ネットワークプログラム
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が支援を行う事業の一つ。iPS細胞等を使った再生医療・創薬を臨床応用につなげるために、再生医療用iPS細胞ストックの構築や、疾患・組織別に医療の実現を目指す研究体制を構築し、iPS細胞等の実用化を推進するプログラム。iPS細胞研究中核拠点、疾患・組織別実用化研究、疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究など様々なプロジェクトが含まれる。 注4) 疾患特異的iPS細胞バンク
さまざまな患者さんから作製したiPS細胞を疾患特異的iPS細胞といい、理化学研究所のバイオリソースセンターに保存しています。疾患特異的iPS細胞は疾患に関するメカニズムの研究や創薬スクリーニング研究に利用できると期待されています。

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