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2021年3月25日

iPS細胞無償提供で国内外コロナ研究促進へ - 本日より申し込み受付開始

1. 要旨

 昨年4月から、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(以下CiRA_F)・京都大学iPS細胞研究所(以下CiRA)・りんくう総合医療センター(以下りんくう)・京都大学医学部附属病院(以下京大病院)の4機関が協力し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する国内外の研究促進に向けて準備を進めてきました。

 具体的には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した後に回復した6名の末梢血からそれぞれiPS細胞を樹立しました。この6人のiPS細胞を、国内外(営利企業含む)の研究機関へ無償提供することで、新型コロナウイルス感染症の発症メカニズムや重症度が異なる原因などをいち早く解明することにつなげたいと考えています。これより、新型コロナウイルス感染症における適切な診断方法や治療法の確立に貢献することを目指しています。

2. 背景

 新型コロナウイルス感染症の症状の一つに、急性呼吸器疾患があります。2019年11月に初めて新型コロナウイルスのヒトへの感染が発生し、その後全世界規模の感染拡大により、2021年2月上旬ですでに全世界で220万人以上が死亡するなど、人類に甚大な被害をもたらしています。

 このウイルスは、ヒトへ感染しても感染症状の出ないケースが多い一方、一部に重症化する症例があります。このため、逼迫する医療現場の負担を少しでも軽減し最大限の患者さんの救命を目指すためには、重症化リスクの予測とそれに基づく適切な治療が極めて重要です。

 新型コロナウイルス感染症の重症化リスクには喫煙、高齢、心筋症などの基礎疾患などが指摘されていますが、遺伝子背景の違いによる肺胞上皮細胞や心筋細胞の性状差によることも推定されています。しかし、各臓器の細胞を患者さんや回復者の方から採取することは大変困難です。そこで比較的入手が容易な血液の細胞を採取し、iPS細胞を作製することで、患者さんと同じ遺伝的背景を持った様々な細胞(肺や心臓の細胞など)を使った実験をすることが可能となります。

 また、iPS細胞を使った研究を行うためには、患者さんへのお声がけや同意取得、iPS細胞の樹立、またゲノム解析など樹立した後の細胞の品質確認が必要であり、個々の研究機関がこの部分を一から整えるとなると、研究開発を進めるための時間や費用の負担も大きくなってしまいます。これらの課題解決の一端を当4機関が担い、様々な外部機関に研究開発の機会を提供することにより、研究の促進と開発スピードの向上を期待しています。

3. 細胞樹立から配布までの流れ
<新型コロナウイルス感染症回復者由来iPS細胞の樹立と分配>
① 説明・同意取得 新型コロナウイルス感染症と診断され入院中の患者さんのうち、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査が陰性等で退院基準を満たした方、
または以前に新型コロナウイルス感染症と診断され現在は回復した方を対象に、りんくう、もしくは京大病院で、研究内容を説明し、本人の自由意思に基づく同意を取得する。
② 細胞採取 りんくうまたは京大病院において、末梢血を20-30mL程度採取する。
③ 情報の匿名化 りんくうまたは京大病院において、個人が特定されないよう匿名化し、採取した末梢血と診療情報(性別・年齢・既往症・新型コロナウイルス感染症重症度)をCiRAへ提供する。
④ iPS細胞の樹立 CiRAにおいて、②で採取した末梢血から血球細胞を分離し、iPS細胞を樹立する。
⑤ ゲノム解析 CiRA_Fにおいて、④で樹立したiPS細胞を用いて品質試験と全ゲノムを対象とした解析を行う。また、CiRAから一部の診療情報を受け取る。
⑥ 研究試料の分配および
付随情報提供
CiRA_Fにおいて、本件に関して樹立したiPS細胞を国内外(営利企業含む)の研究者へ無償で提供することにより、各機関での研究促進を目指す。
また、取得した解析情報や、必要な場合は診療情報(性別・年齢・既往症・新型コロナウイルス感染症重症度)等の研究に有益となりうる情報を提供する。
<ご協力をお願いした患者さんについて>

以下の全ての項目に該当する方12名に採血の協力をいただき、様々な条件を考慮し6名を選出し、
iPS細胞を樹立しました。

  1. 新型コロナウイルス感染症罹患後に回復した方
  2. 京大病院、りんくう総合医療センター等を受診した方
  3. 本人の自由意志により同意が得られた方
4. 細胞提供について

 「新型コロナウイルス感染症回復者由来のiPS細胞」提供はCiRA_Fが担当します。現時点では、iPS細胞の樹立や各試験が全て完了した3種類のiPS細胞株を無償で提供することが可能です。最終的には全6種類の株提供が可能になる予定で、残りの3種類に関しても品質などの試験が完了し次第、提供を開始する予定です。

 提供を希望する研究者は、CiRA_Fウェブサイトより申請書をダウンロードの上、minnano-saibou*cira-foundation.or.jp(*を@ご変更ください)宛に書類を送信してください。

■ 提供費用:無料

※原則、国内企業や海外機関への輸送費は依頼者が負担、国内アカデミアへの輸送費はCiRAが負担することとなります。

5. 経緯
① 2020年4月16日 CiRA・CiRA_F・りんくう・京大病院の4機関により、プロジェクト発足。
② 2020年4月28日 本プロジェクトに関し倫理委員会からの許可取得。患者さんへの協力呼び
かけ開始。
③ 2020年6月~9月 重症度の異なる回復者12名から血液採取のご協力をいただく。
④ 2020年9月20日 最初の回復者由来iPS細胞樹立。
⑤ 2021年2月下旬 12名中3名の回復者由来iPS細胞の樹立および品質を確認する試験が終了。
⑥ 2021年3月25日 12名中3名の回復者由来iPS細胞の提供受付を開始。
6. 今後の予定

 CiRA_F宛に当iPS細胞提供のご依頼をいただいた機関に対し、順次ご連絡し、契約締結など細胞発送に向けた準備を行います。また追加の情報などがございましたら、CiRAやCiRA_Fのウェブサイトでお知らせします。

7. 本プロジェクトへの支援

 本プロジェクトは、iPS細胞研究所へのご寄付を活用させていただきました。

8. CiRA_F 理事長・CiRA 所長 山中伸弥 コメント

 新型コロナウイルスによるパンデミックに対して、私たちもプロジェクトチームをつくって研究をすすめています。今回、同プロジェクトで作製したiPS細胞を、他の研究者に使って頂けるよう配布受付を開始しました。今回
配布するiPS細胞は、新型コロナウイルスに感染し、軽症、中等症、もしくは重症となった後に回復された患者さんから樹立しました。iPS細胞から分化誘導させた肺組織の細胞や、ACE2遺伝子を強制発現させた未分化iPS細胞において、新型コロナウイルスが効率よく感染することを確認しています。より多くの研究者に利用いただくことにより、新型コロナウイルス感染症の収束に少しでも貢献できればと考えています。




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