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―移植物が関節軟骨を構築する新技術―

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2023年2月20日

同種iPS細胞から作った軟骨により関節を再生
―移植物が関節軟骨を構築する新技術―

ポイント

  1. 同種※1iPS細胞由来軟骨を使った関節軟骨の再生メカニズムを解明
  2. これまで他人の移植軟骨が生着するか否かわからなかったが、霊長類モデル※2を用いて同種iPS細胞由来軟骨が関節軟骨の軟骨内欠損※3に生着し、関節軟骨を直接構築することが明らかに
  3. 関節軟骨損傷・変性の治療応用に期待
1. 要旨

 大阪大学大学院医学系研究科/大学院生命機能研究科の阿部健吾 特任研究員(組織生化学、京都大学大学院医学研究科整形外科学)、妻木範行 教授(組織生化学、大阪大学WPI-PRIMe、京都大学iPS細胞研究所CiRA 臨床応用研究部門)らの研究グループは、別の霊長類個体のiPS細胞から作った軟骨を、膝関節軟骨を欠損した霊長類動物モデルに移植することにより関節軟骨を再生できることを明らかにしました。

 関節軟骨の損傷・変性は、関節痛の原因となります。傷んだ軟骨は自然には治らないため、再生治療が期待されていますが、移植して関節軟骨を置き換える、即ち移植物が生着して関節軟骨を直接構築することを示した治療方法はありませんでした。また、他人の軟骨を移植したときに免疫拒絶が起きるかについてもよくわかっていませんでした。

 今回、研究グループは、サルのiPS細胞から作った軟骨を別のサルの膝関節軟骨の欠損部に移植することにより、同種iPS細胞由来軟骨が生着することを示し(図)、さらに移植物が関節軟骨を構築する機序を解明しました。これにより、関節軟骨損傷・変性に対して同種iPS細胞由来軟骨を移植することにより、関節機能の回復と痛みの軽減をもたらす新しい再生治療の開発に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、2月20日(日本時間)に公開されました。

図. サル膝関節軟骨内欠損に同種iPS細胞由来軟骨を移植後4ヶ月

a) 左、移植しないと欠損部は線維組織で埋まり(黒角括弧)、周辺の軟骨は変性する
(黒矢頭)。右、移植物は生着し(赤角括弧)、周囲の軟骨変性は起きない(赤矢頭)。

b) 関節の滑らかな動きを担うPRG4は移植物の中で、正常関節軟骨と同様に表層に発現する。

2. 研究の背景

 これまでの関節軟骨損傷に対する細胞治療では、移植した細胞自身が修復組織を構成するわけではなく、移植した細胞が分泌する因子がホストの細胞を刺激して修復組織を作らせていることが知られていました。ホスト細胞の修復能は限られているため、細胞治療では関節軟骨の再生に限界がありました。また、移植した同種軟骨が免疫拒絶される可能性について良くわかっていませんでした。

3. 研究の内容

 軟骨は軟骨細胞と軟骨細胞外マトリックスから成る組織です。研究グループでは、iPS細胞から軟骨細胞だけでなく軟骨組織までを作り、それを移植して関節軟骨を置き換える新しい再生治療方法を開発しています。今回、まず同種移植が可能かを調べるために、ヒトと免疫系が似ているサルを用いて同種iPS細胞由来軟骨を膝関節の軟骨内欠損に移植したところ、少なくとも4ヶ月のあいだ生着し、再生組織を直接構成していました。免疫反応は起きていませんでした。次に、移植後のiPS細胞由来軟骨を採取してシングルセルRNAシーケンス解析を行ったところ、PRG4の発現が移植後に増加したことを発見しました。PRG4は関節軟骨表層で作られ、潤滑作用があります。更に解析を行い、移植後の関節運動がSIK3を介してPRG4を誘導することで、移植軟骨が関節軟骨として働いていることを示唆する結果を得ました。これらの結果により、同種移植の有効性、そしてiPS細胞由来軟骨が生着して再生組織を直接構成すること、移植後に関節軟骨様に再構築される機序が示されました。

4. 研究の内容

 軟骨は軟骨細胞と軟骨細胞外マトリックスから成る組織です。研究グループでは、iPS細胞から軟骨細胞だけでなく軟骨組織までを作り、それを移植して関節軟骨を置き換える新しい再生治療方法を開発しています。今回、まず同種移植が可能かを調べるために、ヒトと免疫系が似ているサルを用いて同種iPS細胞由来軟骨を膝関節の軟骨内欠損に移植したところ、少なくとも4ヶ月のあいだ生着し、再生組織を直接構成していました。免疫反応は起きていませんでした。次に、移植後のiPS細胞由来軟骨を採取してシングルセルRNAシーケンス解析を行ったところ、PRG4の発現が移植後に増加したことを発見しました。PRG4は関節軟骨表層で作られ、潤滑作用があります。更に解析を行い、移植後の関節運動がSIK3を介してPRG4を誘導することで、移植軟骨が関節軟骨として働いていることを示唆する結果を得ました。これらの結果により、同種移植の有効性、そしてiPS細胞由来軟骨が生着して再生組織を直接構成すること、移植後に関節軟骨様に再構築される機序が示されました。

5. 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 関節軟骨損傷・変性は変形性関節症に進行し、関節痛と関節機能障害を起こします。本研究成果により、同種iPS細胞由来軟骨による関節軟骨損傷・変性の再生の有効性と作用機序が示されました。現在進行している同治療方法の臨床応用、実用化に向けた研究に貢献することが期待されます。

6. 論文名と著者
  1. 論文名
    Engraftment of allogeneic iPS cell-derived cartilage organoid in a primate model of articular cartilage defect
  2. ジャーナル名
    Nature Communications
  3. 著者
    Kengo Abe1,2,3, Akihiro Yamashita1,3, Miho Morioka1, Nanao Horike1,3, Yoshiaki Takei3,4,
    Saeko Koyamatsu1, Keisuke Okita5, Shuichi Matsuda2, Noriyuki Tsumaki1,3,6*
    (*責任著者)
  4. 著者の所属機関
    1. 大阪大学 大学院医学系研究科 組織生化学/大学院生命機能研究科 組織生化学
    2. 京都大学 大学院医学研究科 整形外科学
    3. 京都大学 iPS細胞研究所 臨床応用研究部門
    4. 旭化成株式会社 ヘルスケア研究開発センター
    5. 京都大学 iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門
    6. 大阪大学 世界トップレベル研究拠点プログラム ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(WPI-PRIMe)
7. 本研究への支援

 本研究は、日本医療研究開発機構 再生医療実現拠点ネットワークプログラム、疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B)「iPS細胞由来軟骨細胞を用いた軟骨疾患再生治療法の開発拠点」(22bm0304004h0010)および科学研究費助成事業研究(18H02923)の一環として行われました。

8. 用語説明

※1 同種
他人の臓器・組織を移植することを、同じヒト種間という意味で同種移植と言う。個人はそれぞれ固有の主要組織適合抗原(MHC)を持ち、他人の細胞は免疫系で非自己と認識されて排除される(拒絶反応)。iPS細胞を含めた再生治療を普及させるためには、同種移植を実現させて医療コストを下げる必要がある。

※2 霊長類モデル
動物の哺乳類のなかで、ヒトとサルは霊長類に分類される。他の動物にくらべて、進化的にヒトとサルは最も直近に分岐し、免疫系を含めて似ている。動物実験ではマウス、ラット、ミニブタが使われるが、ヒトでの有効性を推し量る点において霊長類モデルがより有用である。

※3 軟骨内欠損
関節軟骨の欠損は深さの程度で2つに分けられる。一つは欠損が軟骨にとどまる軟骨内欠損。もう一つは軟骨下骨が破綻し、欠損が骨に達するもの。変形性関節症を始め、多くの軟骨病変は軟骨内である。軟骨は無血管で修復反応が起こらないため、軟骨内欠損は治らないことが知られている。

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