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-病気研究・創薬・再生医療を支えるiPS細胞の新たな基準作り-

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2025年6月6日

多様な人種・遺伝背景に対応する"標準参照細胞"を目指して
-病気研究・創薬・再生医療を支えるiPS細胞の新たな基準作り-

 CiRAの堀田秋津准教授らのグループによるフォーラム論文が2025年6月6日にCell Stem Cell 誌に掲載されました。世界各国の研究者によって、病気の研究や新薬開発、再生医療に活用されるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の「標準参照(リファレンス)細胞株」の概念を大きく拡張し、多様な人種や遺伝的背景を網羅する標準iPS細胞の確立が提案されました。

 従来の研究では、主に一部の欧米系男性から作られたiPS細胞が標準として使われてきました。しかし、人種や個人差によってゲノム配列にも大きな違い(1塩基の違いだけでも300万箇所以上)があります。また、健康な方のゲノム配列を調べても、平均17から27個の疾患に関連する遺伝子変異を持っていることも報告されています。多様なゲノム配列の背景を持つ個人ごとに薬への反応も大きく異なることがわかってきており、これまでの"標準"がすべての人に当てはまるとは限りません。

 今回のフォーラム論文では、次の3つの課題に応える新しいiPS細胞標準の国際的な枠組みが紹介されました:

1)多様性の確保
日本やカナダでは、病気を持たない健康な人々からiPS細胞を作成し、それぞれの遺伝情報を詳細に解析。多民族の背景を持つ細胞を参照標準用に整備する試みが進んでいます。

2)病気モデルや薬効評価への応用
病気の再現や薬の探索には、複数の背景を持つ細胞で確認しないと、効果や副作用を見落とす可能性があります。多様な標準参照細胞があれば、より信頼性の高い結果が得られます。

3)再生医療・細胞治療での活用
他人由来のiPS細胞を用いた治療において、免疫拒絶は大きな課題です。公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団ではこれまで、約4割の日本人に適合する免疫型(HLA型)の臨床用iPS細胞を樹立した他、さらに、ゲノム編集技術を用いて拒絶反応が起きにくい低免疫原性iPS細胞もレパートリーに加えることで、多様なiPS細胞の提供を進めています。

 研究チームは「これからのiPS細胞研究や治療は、"誰の細胞を使うか"がますます重要になる」とし、特定の集団に偏らない公平な医療開発を推進するために、世界中の研究機関との協力を呼びかけています。

論文名と著者
  1. 論文名
    Diversifying the Reference iPSC Line Concept
  2. ジャーナル名
    Cell Stem Cell
  3. 著者
    James Ellis1,6*, Knut Woltjen2, Seema Mital3, Megumu K. Saito4, Akitsu Hotta4* and Jeanne F. Loring5*
    *責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. Developmental, Stem Cell and Cancer Biology, The Hospital for Sick Children
      Dept. of Molecular Genetics, University of Toronto
    2. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)未来生命科学開拓部門
    3. Genetics and Genome Biology, The Hospital for Sick Children,
      Dept. of Pediatrics, University of Toronto
    4. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)臨床応用研究部門
    5. Dept. Molecular Medicine, Scripps Research Institute
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