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2026年11月6日

フィーダー細胞に着目した構成細胞比率の改善によるヒトiPS細胞由来視床下部-下垂体オルガノイドの効率的分化法の開発

ポイント

  1. iPS細胞の培養に用いるフィーダー細胞の種類によって、その後の分化嗜好性が変化する。
  2. 2種類のフィーダー細胞を混合してiPS細胞を培養することで、オルガノイド内の構成細胞比率が改善され、視床下部ー下垂体オルガノイドの分化効率が向上した。
  3. 塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) の安定型変異体を用いることで、培地交換の頻度を減らしたWeekend-free分化誘導法を開発した。
1. 要旨

 松本 隆作 特定拠点助教 (CiRA未来生命科学開拓部門)、山本 拓也 教授 (CiRA未来生命科学開拓部門) らの研究グループは、ヒトiPS細胞の維持培養条件を工夫することで、ヒトiPS細胞から視床下部ー下垂体オルガノイド注1)注1)視床下部ー下垂体オルガノイド
iPS細胞から誘導した立体的な細胞組織で、視床下部と下垂体の発生過程や両組織の相互作用を再現することができる。実際に下垂体ホルモンを分泌する機能的な下垂体ホルモン産生細胞を含む。
を効率よく作製する方法を開発しました。

 研究グループは、iPS細胞の培養に用いるフィーダー細胞注2)注2)フィーダー細胞
iPS細胞の増殖や未分化性の維持を支えるために、iPS細胞と一緒に培養する細胞。細胞の増殖や状態を保つために必要なさまざまな因子を供給する。SNL細胞やマウス胎児線維芽細胞(MEF)を用いることが一般的。
の種類によって、その後の分化の嗜好性が異なることに着目しました。2種類のフィーダー細胞を混合してiPS細胞を維持培養することで、オルガノイド内の視床下部細胞と口腔外胚葉細胞の構成比率を調整し、下垂体前駆細胞への分化効率を向上させました。さらに、維持培養に用いるbFGFを安定型変異体に置き換えることで、週末の培地交換を不要とする培養法を確立しました。

 本成果は、下垂体オルガノイドの作製効率を高めるとともに、培養に伴う負担を軽減することで、下垂体の発生・疾患研究や再生医療に向けた研究への応用拡大につながると期待されます。

 この研究成果は2026年11月5日に「Stem Cell Reports」で公開されました。

2. 研究の背景

 視床下部ー下垂体オルガノイドは、ヒトiPS細胞から視床下部と下垂体の発生過程や細胞間の相互作用を再現する三次元の組織モデルです。実際に下垂体ホルモンを分泌する下垂体細胞を作製することが可能であり、下垂体疾患の病態解明や再生医療に向けた研究に活用されています。

 しかしながら、本手法によって機能的な下垂体ホルモン産生細胞を得るまでには2~3ヶ月の長期培養を要し、細胞株や培養環境によって分化効率が一定でないことが課題でした。また、分化誘導に用いるiPS細胞の維持培養法では、毎日の培地交換が必要であり、週末を含めた継続的な作業が研究者の負担となっていました。

 そこで、研究グループは、iPS細胞の維持培養法に着目し、下垂体細胞への分化効率の向上と培養操作の簡便化に取り組みました。

3. 研究結果

 下垂体は口腔外胚葉から発生・分化しますが、その過程では、隣接する視床下部との細胞間相互作用が重要です。iPS細胞から視床下部ー下垂体オルガノイドを誘導する手法では、一つのオルガノイド内に口腔外胚葉と視床下部を同時に誘導し、両者の相互作用を再現することで下垂体細胞への分化を促します。

1)フィーダー細胞による分化嗜好性の違い
 SNLフィーダー細胞で培養したiPS細胞と、MEFフィーダー細胞で培養したiPS細胞から、それぞれ視床下部ー下垂体オルガノイドを形成しました(図1A)。その結果、SNLで培養したiPS細胞では、口腔外胚葉細胞が多く、MEFで培養したiPS細胞では視床下部細胞が多く誘導されました(図1B)。さらに、神経外胚葉系遺伝子と非神経外胚葉系遺伝子の発現を定量的PCRで比較したところ、MEFで培養したiPS細胞は神経外胚葉系へ、SNLで培養したiPS細胞は非神経外胚葉系への分化嗜好性があることが示唆されました(図1C)。

 本分化誘導法では、オルガノイド内に視床下部細胞と口腔外胚葉細胞をバランスよく誘導し、両者の細胞間相互作用を再現する必要があります。そこで、SNLフィーダー細胞で培養したiPS細胞とMEFフィーダー細胞で培養したiPS細胞を混合することで、オルガノイド内に視床下部細胞と口腔外胚葉細胞の構成比を調整し、下垂体細胞への分化効率を高められるかを検証しました(図1A)。その結果、混合したiPS細胞から誘導した下垂体オルガノイドでは、視床下部細胞と口腔外胚葉細胞がともに誘導され、LHX3+下垂体前駆細胞への分化が促進されました(図1D)。

図1 フィーダー細胞の種類による分化嗜好性の違い

A. SNLとMEFフィーダー細胞で培養したiPS細胞からの視床下部ー下垂体オルガノイド形成

B. SNLとMEFフィーダー細胞で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養21日目)

C. 神経外胚葉系遺伝子と非神経外胚葉上皮遺伝子の定量的PCR(培養21日目)

D. SNLとMEFで培養したiPS細胞を混合した際の蛍光免疫染色(培養39日目)

2)フィーダー細胞混合による分化効率改善
 SNLで培養したiPS細胞とMEFで培養したiPS細胞を混合することで、下垂体細胞への分化効率が向上しました。しかし、2種類のiPS細胞を別々に培養したうえで混合して分化誘導する方法は、2種類のiPS細胞を別々に維持培養する必要があり、作業負担が大きくなります。そこで、SNLとMEFを混合したフィーダー細胞でiPS細胞を培養し、視床下部ー下垂体オルガノイドを誘導することで、同様の効果が得られるのかを検証しました(図2A)。その結果、混合フィーダー細胞で培養した場合でも、視床下部細胞と口腔外胚葉細胞の構成比率はSNLとMEFの単独の場合の中間程度となりました(図2B-C)。さらに培養を進めると、混合フィーダー細胞条件では、LHX3+下垂体前駆細胞への分化効率が向上しました(図2D)。さらに、フィーダー細胞の適切な混合割合を検討したところ、SNL:MEFの混合比率が3:1から1:1の範囲で良好な分化効率が得られました(図2E)。

図2 細胞構成比率の最適化による分化効率の改善

A. SNLとMEF、これらを1:1で混合したフィーダー細胞で培養したiPS細胞の位相差画像

B. SNLとMEF、混合フィーダー細胞で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養21日目)

C. SNLとMEF、混合フィーダー細胞で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの口腔外胚葉と視床下部の面積比

D. SNLとMEF、混合フィーダー細胞で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養39日目)

E. 混合比率を変化させたフィーダー細胞で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養39日目)

3)Weekend-free分化誘導法の開発
 iPS細胞から視床下部ー下垂体オルガノイドを形成する実験系では、iPS細胞のフィーダー上での培養に連日の培地交換が必要であり、さらにオルガノイドの分化誘導には数ヵ月を要することから、実験者の大きな負担になってきました。そこでiPS細胞の維持培養に用いるbFGFに着目し、その安定型変異体(FGF2-G3)を用いることで、培地交換の頻度を週3回まで減らすことに成功しました(図3A)。さらに、下垂体オルガノイドの分化誘導における培地交換頻度とタイミングを見直すことで、週末の培地交換を不要とするweekend-free分化誘導法を確立しました(図3B)。この方法を用いても、下垂体前駆細胞や下垂体ホルモン産生細胞への分化効率は従来法と同程度に維持されました(図3C-D)。さらに、ACTH分泌量についても上昇する傾向が認められました。

図3 Weekend-free分化誘導法の開発

A. 従来法(bFGFを用いて連日の培地交換)で培養したiPS細胞と、改良法(FGF2安定変異体を用いて週3回の培地交換で)培養したiPS細胞の位相差画像と蛍光免疫染色

B. Weekend-free分化誘導法プロトコル

C. 従来法と改良法で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養39日目)

D. 従来法と改良法で培養したiPS細胞から誘導した視床下部ー下垂体オルガノイドの蛍光免疫染色(培養103日目)

4. まとめと展望

 iPS細胞の培養法には様々な方法が存在します。培養条件によって、その後の分化嗜好性が異なることが知られており、目的とする細胞種に応じて、分化誘導前の培養条件を適切に設定することが重要です。本研究では、iPS細胞の培養に用いるフィーダー細胞に着目し、2種類のフィーダー細胞の混合比を調整することで、視床下部と口腔外胚葉のバランスを改善し、下垂体前駆細胞への分化効率を向上させました。さらに、培地交換の頻度を減らしたWeekend-free分化誘導法も実現しました。本研究で確立した、より効率的で簡便な分化誘導法により、視床下部-下垂体オルガノイドを用いた発生・疾患研究、再生医療への応用がさらに進むことが期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    Optimized feeder-dependent culture enables efficient hypothalamic-pituitary organoid induction from human pluripotent stem cells
  2. ジャーナル名
    Stem Cell Reports
  3. 著者
    Ryusaku Matsumoto1,*,**, Ayaka Nishio1, Takuya Yamamoto1,2,3,**
    *:筆頭著者
    **:責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 京都大学 高等研究院 WPI-ASHBi
    3. 理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP)
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. 日本学術振興会 特別研究員奨励費 (21J01689)
  2. 日本医療研究開発機構(AMED)

    - 再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム
    次世代医療を目指した再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発拠点(JP23bm1323001)

  3. iPS細胞研究基金 若手研究者育成費
7. 用語説明

注1)視床下部—下垂体オルガノイド
iPS細胞から誘導した立体的な細胞組織で、視床下部と下垂体の発生過程や両組織の相互作用を再現することができる。実際に下垂体ホルモンを分泌する機能的な下垂体ホルモン産生細胞を含む。

注2)フィーダー細胞
iPS細胞の増殖や未分化性の維持を支えるために、iPS細胞と一緒に培養する細胞。細胞の増殖や状態を保つために必要なさまざまな因子を供給する。SNL細胞やマウス胎児線維芽細胞(MEF)を用いることが一般的。

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