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2023年4月21日

CiRAの研究者が最高のサイエンスをするために

ケルビン・フイ研究員

昨秋、CiRA研究推進室にケルビン・フイ研究員が加入しました。若手研究者が能力を発揮できるようにスキルアップの機会を充実させることのほか、研究者へのさまざまな支援に取り組んでいきたいと考えています。

 私が研究員のときのアドバイザーだった、トロント大学のジェフリー・ヘンダーソン博士は「脳はひとりひとりがそれぞれ違う個人となることを可能にする臓器だから、脳だけは決して交換することなどできないだろう」とよく言っていました。

 博士の言葉に反し、幸運にも、近い将来、怪我や病気に対する治療法として、iPS細胞から作った細胞やミニ臓器が安全に人体へ、脳にさえも移植できるようになる日が訪れるかもしれません。

 カナダのトロント大学、理化学研究所脳神経科学研究センター(RIKEN CBS)、アメリカのテキサス大学南西医療センター、そしてアルバートアインシュタイン医科大学と、大学院生からポスドク研究員にかけて、世界のいろいろな研究機関で研究をしてきました。その間、脳の細胞の正常な機能を維持し保護する方法を探索していました。近年、iPS細胞技術の飛躍的な進歩により、iPS細胞を使った革新的な細胞治療は、「もしかして」実現するかもしれない、ではなく、「いつ」実現するか、という段階にきていると思います。

 iPS細胞を使った治療が実現した未来、生命科学がその段階に到達したときには、私が当時研究していたことは、時代遅れになっているのではないかと思います。体内のあらゆる場所で、ダメージを受けた細胞を置き換えることができるようになれば、私たちは細胞を守ることにそれほど気を使わなくてもよくなるかもしれません。iPS細胞は、ゲノム編集の技術と組み合わせることで、きっと応用生命科学のあらゆる分野に革命をもたらすことになるでしょう。

 今、CiRAで私自身が研究を行うことはありません。研究職から離れ、研究推進室の仕事を選んだのには理由があります。一つは「サイエンス」のことです。どのような分野でも海外とのコラボレーションがますます重要になっています。これまで北米や日本で研究生活を送る中で、私は世界中の多くの科学者とつながる機会に恵まれました。研究成果を世界にむけて発信する、国内外の研究費を獲得する、海外研究者との交流や共同研究を促進する、そして一般の方に対して研究について伝えるなど、あらゆる場面で、CiRAの研究者が最高の力を出せるようにサポートしたいと思っています。

 また、昨年の秋にCiRAに着任してからは、若手の研究者がポテンシャルを最大限に発揮できるよう、キャリアアップやステップアップのためのプログラムを展開することにも注力しています。

 私が初めて研究支援に関わったのは、以前にいた理研CBSで、博士研究員協会(PDFA)をエリン・マンロ・クルル博士(現ウィスコンシン州リポン大学教授)と共同で設立し、初代会長として、科学における平等、多様性、インクルージョンを含むコミュニティ形成と博士研究員と大学院生の専門性向上に携わったときでした。当時、ボランティアとして関わるなかで、とても刺激を受け、同時に大きなやりがいを感じました。このとき、若い科学者たちと交流を深めながら、研究だけでなく彼らがキャリアを築いていくためのニーズが常に変化していくことを学びました。

 明確に表れていない問題に関して、さまざまな立場の人が一緒になって解決策を見出すには困難を伴うと考えています。将来のキャリア形成に必要なスキルを身につけることは、研究者自身だけでなく、その研究者が所属する研究機関にとっても有益です。若手研究者は、アカデミア(学術機関)でキャリアを築くのに適した「オン・ザ・ジョブ」トレーニンを受けるのですが、トレーニングの内容は研究室や機関によって大きく異なっています。もちろん研究者自身が自分のキャリアや専門性の向上に責任を持たなければなりません。しかし、私たちスタッフは、研究者にアカデミア以外のキャリアパスを紹介したり、その道を歩むために必要な要件を見つけるサポートをしたりと、もっといろいろなことができるはずです。研究者はというと、研究のトレーニングに集中し、研究成果の論文掲載のプレッシャーに追われるあまり、学術研究以外にまったく別の世界があることを忘れてしまうことがあります。私の目標として、科学者にできるだけ多くのキャリアルートがあることを知ってもらい、CiRAの内外にかかわらず、将来に向けてさまざまなキャリアの可能性を広げるお手伝いができたらと思っています。

 新型コロナウイルス感染症の流行により、研究者のトレーニング、そして研究のしかたも大きく変化しています。従来の対面形式でのミーティングを経験したことがなく、Zoomでしか発表したことがない新世代の研究者が生まれています。自宅のモニターの前で一人きりで学位論文の審査を受けた人もいるかもしれません。パンデミックの経験から生まれた「良いこと」もあると思います。そうしたものの一部は今後も残るでしょうが、この世代の若者が研究者として成功するのに必要なスキルを身につけることができるようにサポートすることが重要であると考えています。

 仕事を離れて、週末の朝は、NBAのバスケットボールを観戦し、私の地元チームであるトロント・ラプターズが再び優勝することを願って応援しています。これまで香港、トロント、東京、ダラス、ニューヨークといった超高速で変化するグローバルハブ都市で暮らした私にとって、京都は格好の気分転換の場です。この街のカフェや小さなレストランを巡ったり、日本の景色を楽しむべくハイキングに出かけたりしたいと思っています。

 CiRAで、私が選んだこの新しいキャリアで、多くのことを学ぶと思います。CiRAメンバーと一緒に働けることを楽しみにしています。

*ケルビン・フイ研究員が英語で執筆し、CiRA Reporter Vol.33に掲載された記事を日本語に翻訳しました。(日本語訳:CiRA国際広報室)

(文(英語):ケルビン・フイ(CiRA研究推進室特定研究員)、翻訳:国際広報室)

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