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2026年10月14日
iPS細胞20周年特集 第2回 患者さんに治療を届けるための仕組みをつくる
iPS細胞誕生20周年を記念し、iPS細胞研究の発展を支えてきた6人に、これまでの20年と次の20年の展望を聞く本特集。全6回の第2回は、株式会社ビジョンケアの髙橋政代 代表取締役社長です。
髙橋 政代 代表取締役社長
株式会社ビジョンケア
2006年のiPS細胞の発表は、私たちの研究チームにとって最も大きな転機となりました。当時、ES細胞注1)注1)ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のことで、マウスでは受精後3~5日目の胚盤胞から将来からだになる部分に成長する運命をもった細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。を用いた網膜再生研究は臨床試験の直前まで進んでいましたが、免疫拒絶という大きな課題が残っていました。目の病気を治療するために全身へ免疫抑制剤を投与することには迷いがありました。そこにiPS細胞が発表され、「これで自家移植注2)注2)自家移植
ある個体由来の細胞や組織を、同一個体の体内に移植すること。ができる」と確信し、最後のハードルが取り払われたと感じました。
私たちは、どのような方のiPS細胞からでも、安全で品質の高い網膜色素上皮細胞を作製できる方法の開発に取り組んできました。その成果をもとに、2014年には世界で初めて、iPS細胞から作製した網膜色素上皮シートを加齢黄斑変性注3)注3)加齢黄斑変性
加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が発生して、見えにくくなる疾患。の患者さんに移植する臨床試験を実施しました。その後も培養技術や製造工程の改良を重ね、現在では細胞製造の自動化が進み、安定した品質の網膜色素上皮細胞を大量に製造できるようになっています。この20年間で、私たちが解決すべき科学的な課題は、一つひとつ着実に乗り越えてきたと思っています。
一方で、予想以上に時間がかかったのは、研究そのものではなく、患者さんへ治療を届けるための仕組みづくりでした。細胞が安全で、治療として有効であることを示せても、それだけでは社会に広がりません。国の審査や医療制度、多くの医療機関で実施できる体制など、乗り越えなければならない課題が数多くあります。振り返ると、この10年間ほどは研究よりも、そうした課題に多くの時間を費やしてきたように思います。
私が目指しているのは、30年、40年後に普及する治療ではありません。近い将来に多くの患者さんに治療を届けることです。その目標を達成するため、現在、株式会社ビジョンケアの代表取締役社長として、新しい再生医療のビジネスモデルづくりに取り組んでいます。再生医療は製品をつくれば終わりではありません。細胞を製造し、安全に手術を行い、術後の診療まで含めて支える仕組みがあって初めて、多くの患者さんへ治療を届けることができます。そのためには、病院、企業、研究機関が一体となったエコシステムが必要です。また、保険を活用することで患者さんの経済的負担をできるだけ軽減し、安心して治療を受けられる仕組みも考えていかなければなりません。
iPS細胞は、この20年で多くの研究の可能性を示してきました。これからの20年は、その成果を一人でも多くの患者さんへ届ける時代です。私はこれからも、治療法を開発するだけでなく、その治療が社会に根づき、当たり前に受けられる未来を実現するための仕組みづくりに挑戦し続けたいと思っています。
注1)ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のことで、マウスでは受精後3~5日目の胚盤胞から将来からだになる部分に成長する運命をもった細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。
注2)自家移植
ある個体由来の細胞や組織を、同一個体の体内に移植すること。
注3)加齢黄斑変性
加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が発生して、見えにくくなる疾患。
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取材・執筆した人:三宅 陽子
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター
