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2014年4月28日

2000年にThe EMBO Journalに掲載された論文について

京都大学iPS細胞研究所

1.経緯
 京都大学iPS細胞研究所山中伸弥教授は、同教授らが2000年に発表した論文に掲載された図に関する疑問点を指摘したウェブサイトを発見しました。
 当研究所は、山中教授の申し出を受け、事実関係を調査しました。

2.疑問点の内容
1)NAT1遺伝子ノックアウト(NAT1-/-)ES細胞が作成されたことを示す論文図3A において、PCRのバンドが横のレーン(NAT1+/-)のものと類似している。

2)NAT1-/-ES細胞において分化能が低下していることを示す論文図7Bにおいて、ノザンブロットを定量化したデータ(Oct3/4 およびSox2遺伝子の発現量)の標準偏差値が全サンプルで近似しており、不自然である。


20140428_1.gif

3.調査の結果
 まず、NAT1-/-ES細胞は、現在も当研究所において使用され、2つの図を含む論文の内容が再現されていることが確認されました。このことから、論文の報告内容が正しいことは明らかです。
 また、山中教授の実験ノートなど過去の資料を調べた結果、図に該当する実験は1998年頃に、山中教授と複数の協力者により行われていたことが確認されました。しかし、山中教授以外の協力者のノートや資料は、山中教授の下に保管されていませんでした。
 次に、指摘されている2つの図について調査を行いました。
 論文図3AのPCRに関しては、バンドは類似しているが同一ではなく、コントラストを変えても切り貼りした痕跡は認められませんでした。山中教授のノートや資料において、図と同じプライマーを用いて行われたPCRでNAT1-/-ES細胞の存在を確認した実験データが確認されました(添付資料1および添付資料2)。しかし、図の原データは、山中教授のノートや資料内には確認できませんでした。
 論文図7Bに関して、山中教授の資料の中に、Oct3/4遺伝の発現をノザンブロットで調べた実験データが確認されました。このデータを図表化すると、論文図7Bと同様に、NAT1-/-ES細胞では、分化刺激によるOct3/4発現量の低下が抑制されていることが確認されました(添付資料3)。しかし、平均値や標準偏差の値は論文図7Bと異なっていることから、原データでは無いと考えられました。

4.対応
 指摘されている2つの図を含めて、当該論文に関連する一連の実験が行われたこと、論文の報告内容が正しいことに疑いの余地がないことから、当研究所は、追加調査の必要は無いと判断しました。
NAT1-/-ES細胞は、理化学研究所バイオリソースセンターに寄託されており、その特性につきましては、科学的に確認して頂くことが可能です(添付資料4)。
 一方で、山中教授以外のノートや資料および図表の原データが、山中教授の下に保存されていないことは遺憾です。
 当研究所では、研究倫理および知財対応の必要からも実験データを研究所において管理しており、このような指摘に対してデータの提示が可能な体制を整えています。


当該論文について
Shinya Yamanaka, et al.
Essential role of NAT1/p97/DAP5 in embryonic differentiation and the retinoic acid pathway
The EMBO Journal Vol. 19 No.20 pp. 5533-5541, 2000

論文の概要:
 NAT1をノックアウトしたマウスES細胞 (NAT1-/-) を作製し、NAT1の機能を解析した論文。本論文でNAT1がES細胞の分化において重要な役割を果たすことを明らかにした。



【山中伸弥教授のコメント】
 当該論文の研究結果については、発表後も研究室内の複数の研究者により再現されています。指摘されている図について、研究者倫理の観点から適切でないことを行った記憶もありませんし、その必要性もありませんでした。しかし、当該実験を実施した約15年前は、研究グループ全員のデータを保存するべきとの意識が十分ではなく、指摘されている2つの図の原データを提出することができないことを反省しています。
 今回の事態を真摯に受け止め、今後、更なる研究倫理の遵守に努めます。



  複数のNAT1-/-細胞ができていることを示した、1998年の実験ノート。
  PCRと形態による確認結果が一致していることが示されている。

  添付資料1の一部(左上部)の拡大図。
  論文図3Aと同じプライマーによるPCRで、複数のNAT1-/-細胞ができていることが示されている。

  山中教授の資料にあったノザンブロット定量データを定量したグラフ。

  理研BRCより入手可能なNAT1+/- およびNAT1-/-ES細胞のPCRによるジェノタイプ確認。


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