ニュース・イベント
News & Events

ニュース・イベント
News & Events

Home › ニュース・イベント › ニュース › 2012年 › 研究活動 › iPS細胞を用いたCINCA症候群の病態解析 Bloodに掲載

ニュース 
News

2012年7月4日

iPS細胞を用いたCINCA症候群の病態解析 Bloodに掲載

中畑龍俊教授(京都大学iPS細胞研究所副所長)、齋藤潤准教授(京都大学iPS細胞研究所)の研究グループの田中孝之特定研究員は、慢性乳児神経皮膚関節(CINCA)症候群(注1)体細胞モザイク(注2)の患者さんからiPS細胞(注3)を作製することにより、その病態を詳細に解析し、遺伝子変異をもった細胞が疾患の発症に深く関わることを明らかにました。

iPS細胞は、試験管内で無限に増殖し、体を形づくる様々な細胞に分化することができます。さらに、患者さんの細胞から樹立したiPS細胞によって、病態を細胞レベルで再現することにより、病気の原因解明や創薬への応用が期待されています。また、iPS細胞の特徴の1つには、単一の細胞が増殖して細胞株が樹立されるという点があります。これまでCINCA症候群体細胞モザイクの患者さんから、この症候群に特徴的な遺伝子の変異(NLRP3変異)をもつ血球と変異をもたない血球を分けて入手することができなかったため、それぞれの機能を解析して比較することはできませんでした。そこで、単一の細胞が増殖して細胞株が樹立されるというiPS細胞の特徴を活かし、患者さんの皮膚の細胞から作製したiPS細胞の中から、遺伝子変異をもつ株、もたない株に分離し、それぞれの詳細な解析を行いました。

本研究では、体細胞モザイクとして体の一部の細胞にNLRP3変異をもつ2名のCINCA症候群の患者さんよりiPS細胞を作製し、NLRP3変異を有するiPS細胞株と変異をもたない正常なiPS細胞株が樹立できました。また、それぞれの株をマクロファージという血液細胞へ分化させたところ、マクロファージに特徴的な形態や性質(貪食能力)では差が見られませんでした。ところが、CINCA症候群の疾患の鍵となる特徴であるIL-1βというサイトカイン(注4)の産生を比較したところ、遺伝子変異をもつマクロファージのみが異常に多いサイトカイン産生を示しました。これにより、患者さんの疾患発症には、NLRP3遺伝子の変異細胞のみが、深く関わっている事が明らかになりました。さらに、これまでの報告からIL-1β産生に対する阻害効果が予想される化合物を添加して同様の実験を行ったところ、NLRP3遺伝子変異をもつ場合にIL-1βの産生が抑制されました。

本研究で用いた遺伝子変異を有する細胞株と正常株を分けての解析は、他の類似の体細胞モザイク疾患にも応用可能です。また、今回樹立されたiPS細胞は、CINCA症候群を含むさまざまなNLRP3関連疾患への治療薬開発のツールとして役立つことが期待されます。

この研究は、京都大学医学部附属病院小児科、千葉大学大学院医学研究院皮膚科学、京都大学大学院医学研究科感染・免疫学講座、京都大学物質-細胞統合システム拠点、東京大学医学部附属病院がんゲノミクスプロジェクトとの連携の元で実施されました。この研究成果は、米国科学誌「Blood」のオンライン版に6月下旬に掲載されました。

論文名
" Induced pluripotent stem cells from CINCA syndrome patients as a model for dissecting somatic mosaicism and drug discovery "

著者
Takayuki Tanaka, Kazutoshi Takahashi, Mayu Yamane, Shota Tomida, Saori Nakamura, Koichi Oshima, Akira Niwa, Ryuta Nishikomori, Naotomo Kambe, Hideki Hara, Masao Mitsuyama, Nobuhiro Morone, John E. Heuser, Takuya Yamamoto, Akira Watanabe, Aiko Sato-Otsubo, Seishi Ogawa, Isao Asaka, Toshio Heike, Shinya Yamanaka, Tatsutoshi Nakahata, and Megumu K. Saito

雑誌web site: http://bloodjournal.hematologylibrary.org/
 
注1:慢性乳児神経皮膚関節(chronic infantile neurologic cunatenous and articular: CINCA)症候群
NLRP3遺伝子の変異に関連して発症する、自己炎症性症候群の1つ。生後すぐに発症し、皮疹、中枢神経病変、関節症状を3主徴とする慢性炎症性疾患。2000年以降、IL-1βの過剰産生が主な原因と解明されたのちに、抗IL-1療法が導入され、著しい効果を上げている。

注2:体細胞モザイク
受精卵から個体へ発生する過程で遺伝子変異が生じたために、一人の細胞の中に遺伝子型の違う細胞集団がまだらに混ざっている状態のこと。CINCA症候群の患者さんでは、すべての体細胞にNLRP3変異がある人も、10-30%程度だけのNLRP3変異細胞を持っている体細胞モザイクと呼ばれる人も、ほぼ同じ程度の症状が出ていました。このため、体細胞モザイクの患者さんでは、本当にNLRP3変異細胞のみが疾患を引き起こす役割を果たしているか、変異の有無に関わらず全ての細胞が何らかの原因で悪影響を及ぼしているのかが不明でした。

注3:iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。皮膚などの体細胞に特定因子を導入することにより作製する。無限に増え続ける能力と体のあらゆる組織細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞である。

注4:サイトカイン
さまざまな細胞から分泌され、特定の細胞の働きに作用するタンパク質のこと。IL-1βは周囲の血球に作用し炎症へと向かわせるタイプの、炎症性サイトカインの1つである。
go top