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2013年6月25日
ヒトiPS細胞作製を阻害する要因の一部を解明
田邊剛士研究員、高橋和利講師、山中伸弥教授らの研究グループは、ヒト細胞の初期化過程を詳細に解析し、iPS細胞注1)の作製を阻害している大きな要因が初期化注2)の成熟過程にあることを示しました。また、LIN28注3)が初期化過程の成熟を促進することによりiPS細胞の誘導効率を上昇させることを見出しました。本論文は米国科学雑誌『PNAS』のオンライン版に6月24日の週に掲載されました。
iPS細胞は体細胞に4つの初期化遺伝子 (OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC ; OSKM) を発現させることで作ることができますが、iPS細胞の作製効率は0.2%以下と非常に低いことが分かっています。この原因として、初期化が多くの細胞で始まるのか、あるいはごく限られた細胞でのみ始まるのかは明確にされていません。
本研究では、初期化され始めた細胞でTRA-1-60という表面抗原が特異的に発現することを見出し、それを指標にして初期化効率を経時的に定量しました。その結果、体細胞の初期化は遺伝子が導入された多くの細胞 (12~24%) で始まっていることが分かりました。しかし、初期化が完了し最終的にiPS細胞になる効率は0.2%程度であることから、初期化の開始ではなく、それ以降のプロセスが障壁となっていると仮説を立てました。TRA-1-60陽性の細胞を詳細に解析した結果、75%以上の細胞が初期化される前の状態に逆戻りしiPS細胞にはなれないことが分かりました。また、初期化効率を改善することが知られているLIN28はこの体細胞への逆戻りを防ぎ、iPS細胞の作製効率を上げることが分かりました。
本研究の成果は、iPS細胞の樹立効率の低さのメカニズムの一端を明らかにしました。初期化の開始よりも成熟を促進させることが効率の良いiPS細胞の樹立につながると考えられます。今後、成熟過程を促進する遺伝子や化合物の探索により更なる効率の改善が期待されます。
Fig. 1 初期化し始めた細胞が、初期化前の状態に逆戻りし始めた写真
緑の細胞は初期化して、iPS細胞へと向かっている細胞。赤の細胞が初期化は始まったが、初期化前の状態に逆戻りし始めた細胞。青の細胞はさらに逆戻りが進行した細胞。
Fig. 2 リプログラミング過程を表したモデル図
多くの細胞が4つの初期化遺伝子によって初期化が始まる。しかし、大多数の細胞が初期化前の状態に逆戻りすることで脱落してしまう。その結果iPS細胞の作製効率は非常に低い。LIN28は逆戻りを防ぐことでiPS細胞の作製効率を上げている。
- 論文名
Maturation, not initiation, is the major roadblock during reprogramming toward pluripotency from human fibroblasts - ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences - 著者
Koji Tanabe1, Michiko Nakamura1, Megumi Narita1, Kazutoshi Takahashi1, Shinya Yamanaka1,2 - 著者の所属機関
- 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
- グラッドストーン研究所
注1)iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に山中教授の研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。
注2)初期化
分化した体細胞の核がリセットされ受精卵のような発生初期の細胞核の状態に戻り、多能性幹細胞などに変化すること。
注3)LIN28
初期化遺伝子の1つ。ヒトES特異的に発現している遺伝子の一つ。ジェームズ・トムソン博士等のグループはLIN28を含む、OCT3/4,SOX2,NANOG,LIN28でヒトiPS細胞の作製に成功している。
