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2014年12月3日

ヒトiPS/ES細胞より高効率に神経堤細胞および間葉系間質細胞の作製に成功 PLOS ONEに掲載

 福田誠大学院生(京都大学CiRA/再生医科学研究所/名古屋市立大学大学院)、中井義典大学院生(京都府立医科大学大学院)、桐野浩輔大学院生(京都大学CiRA)、上野盛夫助教(京都府立医科大学)、池谷真准教授(京都大学CiRA)、戸口田淳也教授(京都大学CiRA副所長/再生医科学研究所/医学研究科)の研究グループは、低分子化合物を添加した無血清培地注1でヒト多能性幹細胞(iPS細胞およびES細胞)から再現性よく高効率に神経堤細胞を誘導する方法を確立し、さらにそこから化学合成培地注2を用いて間葉系間質細胞注3を誘導する方法を確立しました。この成果は、2014年12月2日(米国東部時間)に米国科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

 神経堤細胞は頭部骨格系、角膜、末梢神経系、皮膚色素細胞など多様な細胞種への分化能を有する、胎児期に現れる移動性の細胞集団です。多様な分化能を持つことから、神経堤細胞は細胞移植治療の細胞源として期待されています。これまでにヒト多能性幹細胞から神経堤細胞を誘導する方法はいくつか報告されていますが、安定性、効率、簡便性などの点について改良の余地がありました。

 本研究では、ヒト多能性幹細胞から神経堤細胞を分化誘導および維持培養する過程において、化学合成培地を基礎培地としてGSK3β阻害剤とTGFβ阻害剤と最小限の成長因子(インスリン)を加えることにより、高効率(70〜80%)に神経堤細胞を誘導することに成功しました(図1)。誘導された神経堤細胞は上皮成長因子(Epidermal Growth Factor, EGF)と塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor, bFGF)を添加した培地で少なくとも10回以上の継代培養が可能で、また末梢神経細胞、グリア細胞、色素細胞、角膜内皮細胞、間葉系間質細胞への分化能を有していました。さらにこの手法はフィーダーフリー異種動物由来成分不含培養条件注4で樹立したヒトiPS細胞にも適用が可能であり、その結果、無血清・フィーダーフリー培養条件で神経堤細胞および間葉系間質細胞を分化誘導することに成功しました。

図1 分化誘導7日目の免疫染色像

TFAP2A(赤)で染色される神経堤細胞が効率よく誘導されている。
TFAP2A(赤)で染色される神経堤細胞が効率よく誘導されている。
PAX6(緑):神経細胞のマーカー
DAPI(青):細胞核

図2 神経堤細胞から誘導した間葉系間質細胞は骨・軟骨・脂肪へと分化した
左:軟骨  中央:骨  右:脂肪

 将来、移植治療に用いられる細胞を多能性幹細胞から誘導する際には、マウス由来フィーダー細胞やウシ血清などの異種動物由来成分をなるべく除去し、安全に分化誘導を行う方法の開発が重要です。本手法はフィーダー細胞やウシ血清を除去しつつ神経堤細胞および間葉系間質細胞を高効率に誘導することに成功しており、作製された神経堤細胞および間葉系間質細胞は将来の細胞移植治療の細胞源として期待できます。また、神経堤細胞は継代培養と凍結保存が可能なため、最終分化細胞を誘導するための中間体の細胞として有用であると考えられます。

 この研究は、京都大学再生医科学研究所、京都大学大学院医学研究科整形外科及び発達小児科、名古屋市立大学大学院医学研究科整形外科、京都府立医科大学眼科、京都大学物質-細胞統合システム拠点、同志社大学生命医科学部との連携の元で実施されました。

論文名と著者
  1. 論文名
    Derivation of mesenchymal stromal cells from pluripotent stem cells through a neural crest lineage using small molecule compounds with defined media
  2. ジャーナル名
    PLOS ONE
  3. 著者
    Makoto Fukuta1,2,3†, Yoshinori Nakai4†, Kosuke Kirino2†, Masato Nakagawa6, Kazuya Sekiguchi1,2,5, Sanae Nagata2, Yoshihisa Matsumoto1,2,3, Takuya Yamamoto2,6, Katsutsugu Umeda7, Toshio Heike7, Naoki Okumura8, Noriko Koizumi8, Takahiko Sato4, Tatsutoshi Nakahata2, Megumu Saito2, Takanobu Otsuka3, Shigeru Kinoshita4, Morio Ueno4*, Makoto Ikeya2*, and Junya Toguchida1,2,5*
    *) 責任著者
    †) これらの著者は同等に寄与しました
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学 再生医科学研究所
    2. 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
    3. 名古屋市立大学大学院医学研究科 整形外科
    4. 京都府立医科大学 眼科
    5. 京都大学大学院医学研究科 整形外科
    6. 京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
    7. 京都大学大学院医学研究科 発達小児科
    8. 同志社大学 生命医科学部
本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. 文部科学省・日本学術振興会 科学研究費補助金
  2. 文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
  3. 科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」
  4. JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 「疾患・組織別実用化研究拠点」
7. 用語説明

注1:無血清培地(serum-free medium)
血清を含まない培地。一般的な細胞培養の際には、増殖因子などの供給のためにウシなど大動物に由来する血清がよく使用されるが、どのような成分が含まれているかが不明である。

注2:化学合成培地(chemically defined medium)
化学的に合成された物質のみで構成される成分が明らかな培地のこと。無血清培地は培地成分として血清を使用しないことを定義とするが、化学合成培地はさらに精製された化合物のみから調整された培地である。

注3:間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cells)
骨・軟骨・脂肪細胞などといった間葉系の細胞に分化する能力を持った間質(結合組織)の細胞。

注4:フィーダーフリー異種動物由来成分不含培養条件(Feeder-free/ Xeno-free culture condition)
ヒトiPS細胞の樹立および維持培養には、ウシ血清などの異種動物に由来する成分や、マウス胎仔由来のフィーダー細胞が通常用いられる。フィーダーフリー異種動物由来成分不含培養条件では、フィーダー細胞の代わりにリコンビナントラミニン511 E8断片を用い、異種動物由来成分の除去に成功しており、ヒトへの細胞移植に適したグレードのiPS細胞を作ることが可能となっている。(参考:細胞移植に適した新しいヒトiPS細胞の樹立・維持培養法を確立

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