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2019年4月3日

京都大学iPS細胞研究所とキリンホールディングス株式会社の臨床用iPS細胞ストック由来のCAR発現自然キラーリンパ球の製造開発に向けた共同研究の開始について

 京都大学iPS細胞研究所(所在地:京都市左京区、以下「CiRA」(サイラ))は、CiRAが作製した再生医療用iPS細胞ストックからCAR(キメラ抗原受容体)(注1)発現自然キラーリンパ球(注2)への製造開発に関する共同研究をキリンホールディングス株式会社(本社:東京都中野区、以下「キリンホールディングス」)と共に開始しましたのでお知らせします。

 iPS細胞技術を患者さんに届けるためには、品質の保証されたiPS細胞を安定的に提供できる体制が不可欠です。そこでCiRAでは、CiRA附属の臨床用細胞調製施設であるFiT(Facility for iPS Cell Therapy)において、2013年度から再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト(注3)を推進し、原料の細胞となるiPS細胞ストックを提供してきました。

 本プロジェクトでは、CiRAのiPS細胞ストックから、がんの細胞治療に用いる臨床試験用の免疫細胞を製造することを目的にします。まずはCiRAの金子新准教授のグループによる研究成果をもとに、iPS細胞ストックにがんを認識するCAR遺伝子を導入し、CAR発現キラーリンパ球に分化させるための臨床用の製造プロセスを確立し、FiTから臨床用製剤を供給する体制構築を目指します。

 キリンホールディングスは、CiRAが実施するiPS細胞ストックから、がんの細胞治療に用いる臨床試験用の免疫細胞製造をサポートします。キリンホールディングスは、この共同研究を医の周辺領域への価値創造と位置付け、品質の保証されたiPS細胞由来の臨床試験用細胞を難治性の疾患を患う患者様に届けるサポートをするとともに、細胞加工技術をキリングループにおける新たな事業基盤づくりにつなげていきます。

 CiRA所長の山中伸弥は、「CARによるがん免疫療法は実用化が始まっていますが、患者さんごとの製造が必要となる自家移植が中心でコストの面など課題があります。iPS細胞ストックを用いた本プロジェクトを進めることによって、安定した品質での細胞治療を可能にするとともにコスト削減につながることを期待します」と述べています。

用語説明
注1)CAR(キメラ抗原受容体)
英語でChimeric antigen receptor。特定のタンパク質を持つがん細胞に結合することができる人工的に作られた受容体です。免疫細胞の一種であるT細胞に導入されると、T細胞が特定のタンパク質を持つがん細胞を発見し、攻撃するようになります。

注2)自然キラーリンパ球
免疫には非特異的に即時に反応する自然免疫と、異物に特異的に反応する獲得免疫があります。自然キラーリンパ球は自然免疫に関わる細胞の一つで、がん細胞やウイルス感染細胞に対して攻撃を行います。一般にNK細胞と標記されることもあります。

注3)再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト
HLA(ヒト白血球抗原)の型をホモ接合体(免疫拒絶反応が起きにくい組み合わせ)の細胞を有する健康なドナーからiPS細胞を作製し、あらかじめ様々な品質評価を行った上で、再生医療に使用可能と判断できるiPS細胞株を保存するプロジェクトです。


本研究への支援
  1. 日本医療研究開発機構(AMED) 革新的がん医療実用化研究事業
    「GPC3発現手術不能進行・腹膜播種卵巣明細胞腺癌を対象としたヒト同種iPS細胞由来GPC3-CAR再生自然キラーリンパ球(ILC/NK)の安全性、忍容性および薬物動態を検討する第Ⅰ相臨床試験」
    「iPS細胞に由来するキメラ抗原受容体(CAR)発現再生T細胞の非臨床試験」
  2. 日本医療研究開発機構(AMED) 次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P-DIRECT)
    「免疫機構をターゲットとした創薬」
    (がん特異抗原glypican-3を標的としたiPS細胞由来再生T細胞療法の開発)
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