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2022年6月30日

家族性アルツハイマー病患者さんを対象とした医師主導治験(REBRAnD試験結果速報)

1. 要旨

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久 教授(京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)流動プロジェクトプロジェクトリーダー併任)、三重大学大学院医学系研究科の冨本秀和 特定教授、京都大学医学部附属病院iACTの坂野晴彦 准教授らは、医師主導治験 「プレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病に対するTW-012R(ブロモクリプチン)の安全性と有効性を検討する二重盲検比較試験及び非盲検継続投与試験注1,2」を行い、ブロモクリプチンの安全性と有効性を評価しました。

 2017年に、井上教授のチームは、アルツハイマー病患者さんのiPS細胞を用いて薬剤スクリーニング注3を行い、パーキンソン症候群(病)の治療薬であるブロモクリプチンに、病気のメカニズムを抑える作用があることを、見出していました(CiRAプレスリリース 2017年11月22日)。

 2020年より開始した本医師主導治験(CiRAプレスリリース 2022年6月4日)の結果、治験に参加された患者さんの人数に限りがあるものの、ブロモクリプチンに家族性アルツハイマー病特有の副作用は認めなかったこと、ブロモクリプチンの投与期間中に、2つの主要評価項目において、実薬群ではプラセボ群に比べて、認知機能及び行動・心理症状の病状進行が抑制される傾向を見出しました。

 今後、iPS創薬注4から展開した本治験の結果に基づいて、規制当局と協議をしながら開発方針を決定していく予定です。

【治験責任医師】

  1. 三重大学医学部附属病院 認知症センター 新堂 晃大 准教授
  2. 京都大学医学部附属病院 脳神経内科(髙橋 良輔教授) 眞木 崇州 講師
  3. 大阪大学医学部附属病院 神経科・精神科 池田 学 科長(大学院医学系研究科 教授)
  4. 徳島大学病院 脳神経内科 和泉 唯信 教授
  5. 東京都健康長寿医療センター 脳卒中科・脳神経内科 金丸 和富 部長
  6. 浅香山病院 精神科 釜江 和恵 部長
  7. 川崎医科大学附属病院 脳神経内科 砂田 芳秀 教授
  8. 名古屋市立大学病院 脳神経内科 松川 則之 教授
2. 研究の背景

 アルツハイマー病は、物忘れや日時・場所がわからなくなるなどの認知機能障害と、妄想・徘徊・不安・焦燥などの行動・心理症状を呈する進行性の疾患です。アルツハイマー病は認知症の原因の半数以上を占め、超高齢社会において解決すべき喫緊の課題となっています。現在、認知症治療薬としていくつかの薬剤が使用されています。しかし、アルツハイマー病は根本的治療が難しい疾患であり、さらなる治療薬の開発が求められています。

 CiRAの近藤孝之 特定拠点講師、井上治久 教授らは、アルツハイマー病患者さん由来のiPS細胞を大脳皮質神経細胞注5へ分化させ、その細胞を用いて、既に他の疾患で治療薬として用いられている既存薬の中から病因となるタンパク質アミロイドベータを減らす化合物のスクリーニングを行いました。その結果、最も強力な候補物質としてブロモクリプチンを同定し報告しました。

 ブロモクリプチンは、パーキンソン症候群(病)などの治療薬として用いられている既存薬ですが、アルツハイマー病病因物質であるアミロイドベータを低減させる働きが、プレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病患者さんの神経細胞で特に有効であることが認められています(CiRAプレスリリース 2017年11月22日)。一方、アルツハイマー病および家族性アルツハイマー病を適応症として日本および世界各国で承認されておらず、アルツハイマー病および家族性アルツハイマー病に対する有効性、安全性ならびに適切な用量は確立していません。そのため、ブロモクリプチンは、現時点でアルツハイマー病および家族性アルツハイマー病の治療薬として使用できる状況にありません。

 研究チームは、2020年から、医師主導治験 「プレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病に対するTW-012R(ブロモクリプチン)の安全性と有効性を検討する二重盲検比較試験及び非盲検継続投与試験」(REBRAnD試験)を行い(CiRAプレスリリース 2020年6月4日)、家族性アルツハイマー病患者さんにおけるブロモクリプチンの安全性と有効性を評価しました。

3. 研究結果(速報)

 本治験においては、家族性アルツハイマー病であるプレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病患者さん8名を対象に、20週間にわたりブロモクリプチン1日量最大10mgもしくはプラセボを投与し、続く16週間にわたりブロモクリプチン1日量最大22.5mgもしくはプラセボを投与するプラセボ対照二重盲検比較試験を実施しました。さらにその後約13週間の非盲検継続投与試験を行いました。

 結果として、家族性アルツハイマー病患者8名全員が20週間の二重盲検試験を完了しました。続く16週間の高用量維持期の二重盲検試験中に実薬群1名、プラセボ群2名は試験を完了しませんでした。全体を通じての副作用としては、嘔吐、浮動性めまいなど、既知もしくは薬効から予想される有害事象が見られました。

 ブロモクリプチンの有効性を評価するために、アルツハイマー病の中核症状である認知機能低下の評価指標であるSIB-J注6の変化を調べました。家族性アルツハイマー病の症状が進行するとSIB-Jのスコアが低下します。二重盲検期の20週間において、スコアの低下がみられたのは実薬群5名のうち1名であったのに対し、プラセボ群では3名のうち2名でスコアの低下がみられました。

 また、認知症の行動・心理症状を示す指標であるNPI注7の変化を調べました。家族性アルツハイマー病の症状が進行するとNPIのスコアが上昇します。二重盲検期の20週間において、実薬群5名の方のうちスコアの上昇がみられた患者さんはいなかったのに対し、プラセボ群3名の方のうち1名でスコアが上昇していることが明らかになりました。

4. まとめ

 以上の結果から、家族性アルツハイマー病であるプレセニリン1遺伝子変異アルツハイマー病患者さんで認められた副作用の種類は既に報告されているものと同様であり、家族性アルツハイマー病特有の副作用は認めませんでした(ブロモクリプチン錠2.5mg「トーワ」®、2019年8月改訂 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1169005F1308_1_02/)。

 有効性解析では、ブロモクリプチンの投与期間に予め設定した2つの主要評価項目において、実薬群ではプラセボ群に比べて、認知機能及び行動・心理症状の病状進行が抑制される傾向を見出しました。ただし、本治験に参加された患者さんの人数に限りがあるため、検討が必要であると考えます。

 ブロモクリプチンはアルツハイマー病および家族性アルツハイマー病を適応症として日本および世界各国で承認されておらず、アルツハイマー病および家族性アルツハイマー病に対する有効性、安全性ならびに適切な用量は確立していません。そのため、ブロモクリプチンは現時点でアルツハイマー病および家族性アルツハイマー病の治療薬として使用できる状況にありません。

 今後、iPS創薬から展開した本治験の結果に基づいて規制当局と協議しながら開発方針を決定していく予定です。

5. 医師主導治験の実施体制  
  1. 分担研究者:
    京都大学iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 近藤孝之 特定拠点講師
  2. 治験調整医師:
    三重大学大学院医学系研究科 冨本秀和 特定教授
    京都大学医学部附属病院 坂野晴彦 先端医療研究開発機構(iACT) 准教授
  3. 治験調整事務局:
    京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)
    奥宮太郎、網野祥子、堀尾綾香、坂野晴彦
6. 本研究への支援

 本治験は、京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)、および京都大学発ベンチャーであるタイムセラ株式会社(代表取締役社長 渡邉敏文)より支援を受けて実施されました。その他の支援として、本医師主導治験は、東和薬品株式会社(代表取締役社長 吉田逸郎)から治験薬の提供および安全性情報提供を受けて実施しました。

 本治験に参加された患者さんおよびそのご家族の皆様、本治験関係者の方々のご協力に、感謝申し上げます。

7. 用語説明

注1)プレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病
アルツハイマー病には、常染色体優性遺伝の若年発症の家族性と95%以上を占める孤発性とがある。プレセニリン1変異は、家族性アルツハイマー病の半数以上を占め、プレセニリン2変異およびアミロイドβ蛋白前駆体(APP)変異とともに、家族性アルツハイマー病の原因となる。本邦における、プレセニリン1遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病の患者さんは、100名前後が確定診断されていると推定される。認知症を主症状として、平均発症年齢は40歳代、比較的病気の進行が速い傾向がある。

注2)二重盲検試験・非盲検試験
治験を行う際に、患者さんが治験薬を投与されているか偽薬(プラセボ)を投与されているかなどを、患者さん自身および治験担当医師や治験コーディネーターなどの治験にかかわる病院の医療関係者が分かっていない方法を二重盲検試験といい、分かっている方法を非盲検試験という。

注3)スクリーニング
多数の化合物の中から有効な化合物を見つけること。

注4)iPS創薬
iPS細胞を用いた治療薬研究。患者さんから樹立されたiPS細胞は、患者さんの遺伝子情報を保持しながら病態を再現することが出来る。この細胞を用いて、候補治療薬の効果を調べることができ、患者さんごとに異なる病態にあった薬を抽出可能である利点がある。

注5)大脳皮質神経細胞
大脳の表面に広がる、灰白質という神経細胞の層を構成する。知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る神経細胞のこと。

注6)SIB-J
比較的高度に障害された認知機能を評価するための評価指標(Severe Impairment Battery日本語版)。

注7)NPI
認知症患者における行動・心理症状を測定する評価指標(Neuropsychiatric Inventory)。

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