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2023年5月19日
人生もiPS細胞も、可能性は無限大

易 人行 大学院生
「iPS細胞のどんなところに魅力を感じて研究をしていますか?」 CiRAの高山和雄研究室に所属する博士課程の大学院生・易さんにそのように尋ねると、「私たち人間と同じように、iPS細胞は何にでもなることができる。だけど、そのなかの一つの道しか選べない」という答えが返ってきました。
易さんは、中国で修士課程の学生のときに、研究室のメンバーが海外に留学していくのを見て、人生の選択肢が1つではないと知り、「自分も留学しよう」と思い立ちました。
京都大学に留学した当初、易さんは植物から天然の生理活性物質を単離・精製する漢方薬の研究を続けようと思っていました。しかし、その頃、周囲でiPS細胞の話題を耳にするようになり、一体それが何なのかを自分で調べてみました。iPS細胞について知れば知るほど、その魅力に引き込まれ、とうとう思い切って分野を変えてみようと決心するにいたったのです。
易さんにとっては全く異なる研究分野でしたが、転向を決めてからの挑戦は刺激的でやりがいのあるものでした。指導教官の高山和雄講師のもとで2年間という短い期間で新しいことを学べたことをありがたく思っており、高山先生の研究に対するエネルギーと努力に圧倒されているそうです。
ちょうど博士課程を修了する2、3年後にどうするかを決めるタイミングになり、易さんが直面している課題は、実は研究のことではなく、これからの進路という「無限の可能性」についてでした。将来像はまだ明確ではありませんが、ひとつ確かなことは、iPS細胞はとても魅力的な分野で、これからも多くのことを学んでいくだろうと話しています。
新型コロナウイルス感染症の流行により、留学生として生活することはさらに困難になりました。それでも、帰省はできないながらも、ビデオチャットで家族や友人と連絡を取ることで満足していました。また、学会に参加したり、他の科学者とコミュニケーションを取ったりするために、研究時間を犠牲にして遠方まで出向かなくても、Zoomなどの手段が当たり前に使えるようになりました。これも良い変化だと思っているそうです。
デジタル技術が生活に浸透し、人々がますます内にこもるようになっています。これまでも日本で新しい友人を作ることが難しかったのですが、パンデミックの間は、特にこの傾向が強かったと話します。その代わりに、研究から離れる時間があるときは、ジョギングや写真、ビデオゲーム、近くの広沢池や琵琶湖での釣りを楽しんでいます。これからは日本各地を旅する機会を増やして、新しい富士フイルムのレンズで写真を撮ることを楽しみにしているそうです。


易さんの科学者としてのキャリアはまだ浅く、研究の多くは基礎生物学に関わるものなので、易さん自身も自分の研究が社会にどのような形で役立つのか、まだよくわかっていません。しかし、人類の果てしない科学知識の追求に携わることができていることにワクワクしています。最近発表した彼の研究も、これまでに先達が積み重ねてきた研究のうえに実現しています。自分が努力して生み出した研究成果もまた他の研究者にとって有益であるようにと願っています。科学者が社会に貢献する方法は突き詰めると、新しい知識のピースをひとつずつ手に入れて、いつの日かその知識が合わさることです。易さんは、そのとき、科学によって得られた知識はきっと社会やその先の未来の役に立つと信じています。
「あなたの知りたい究極の科学的な疑問はなんですか」と尋ねたところ、易さんは、「宇宙の起源です。私たちは全宇宙のなかのほんの小さな惑星に生きています。宇宙の本当の姿はどうなっているのでしょうか?」と答えました。易さんは大きな疑問を考えるタイプのようで、iPS細胞に関心を持ったときのように、今も無限の可能性を感じさせることに興味を抱いています。
さて、壮大な宇宙から地球に戻ってきて、CiRAでの科学の旅について、もう少し聞いてみました。「私がiPS細胞を好きなのは、どんな種類の細胞にもなれる可能性、つまりその多能性です。それがiPS細胞の素晴らしいところだと思います」と易さん。
しかし、彼はこう続けます。「私はiPS細胞のことが嫌いでもあります。たくさんの可能性があるということは、本当に一生懸命研究に取り組んですべての背景や知識を得ないと、そのメカニズムを理解することができない、ということだからです」
疑いの余地もなく、iPS細胞の無限の可能性こそ、彼が好奇心をかき立てられ、CiRAで研究を続ける原動力になっているのです。
*このインタビューは2022年12月に英語で行われ、CiRA Reporter Vol.33に掲載されました。
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取材・執筆した人:ケルビン・フイ
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
研究推進室 特定研究員(翻訳:CiRA国際広報室)