ニュースレター
Newsletter
ニュースレター
Newsletter
Internship
2025年1月8日
研究の力で移植医療の未来を切り拓く
AMED 再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラムの中核拠点の活動の一環として、CiRAは博士研究員をはじめとした若手研究者を対象に、主に再生・細胞医療・遺伝子治療研究の基盤的技術を学ぶためのインターンシップを開始しています。
2024年9月半ばからの3か月、このプログラムのインターンシップ生として金子新研究室でiPS細胞からナチュラルキラー(NK)細胞注1)を作製する技術を学んだ広島大学大学院医系科学研究科博士課程1年目の三枝義尚さんにインタビューしました。
培養室の前室での
三枝
義尚
さん
(広島大学)
三枝さんは医師でありながら、大学院生として研究もしているとお伺いしています。専門や研究内容を教えてください。
広島大学医学部の学生の時から、移植医療に興味がありまして、研修医を経て広島大学病院の消化器・移植外科に入局し、移植医療に携わっています。私が扱っているのは腹部の臓器である肝臓、膵臓、腎臓です。
移植をすると自分の臓器ではない他人の臓器が体に入っている状態なので、その臓器に対する免疫反応が起きないように、基本的には免疫抑制剤を一生涯飲み続ける必要があります。肝臓がん患者さんの肝臓を取り除いて、新しい肝臓を移植した後も例外ではなく、免疫抑制剤を飲むんですが、術後に免疫抑制剤を飲み続けることで免疫が弱り、がんが再発することがあります。患者さんや主治医、外科医ともにしんどい思いをして頑張って移植をしても再発してしまうというのが非常に悔しくて、移植手術の技術を磨くだけではどうにもならないと感じていました。
この免疫の問題をどうにかしたいと思い、2024年の春より広島大学大学院医系科学研究科に入学し、臓器移植後のNK細胞を用いた免疫賦活療法注2の研究を行う研究室に所属しました。私たちの研究室が着目しているのが肝臓の中にあるNK細胞です。肝臓の中のNK細胞が肝臓の免疫に重要な役割を果たしていて、肝臓の中のNK細胞を肝臓の移植後に投与することで肝臓がんの再発を減らせるということが分かってきたんです。
なぜCiRA中核拠点インターンシップに参加しようと思ったのですか?
肝臓の中のNK細胞を作るというのが私のシンプルな目標です。しかも、作るにあたってなるべく簡便でかつ扱いやすい方法がよい。肝臓の中のNK細胞を肝臓の移植後に投与することが効果的と分かりましたが、これはドナーの肝臓から取ってきたNK細胞を使うので、肝臓を移植するときしか取ってこれないんですよね。患者さんの末梢血から採取した造血幹細胞からNK細胞を作るという手段もありますが、こちらも手間がかかる。
そこで、iPS細胞から肝臓の中のNK細胞を作ることができれば、迅速により効率よく患者さんに投与できるのではないかと考えたのです。広島大学の研究室でも、他のメンバーがiPS細胞を使った研究に挑戦していたのですが、効率や技術面で課題が多いことが分かり、より深く学ぶ必要があると感じました。そして、iPS細胞を用いた免疫細胞について世界トップクラスの研究を行っているCiRAの金子新研究室にたどり着きました。金子研究室は、iPS細胞から免疫細胞を誘導する技術で特に先進的であり、自分の研究に大いに役立つだろうと思いインターンシップに参加しました。
インターンシップ中はどのようなことをしましたか?
iPS細胞を扱うのが初めてだったので、iPS細胞の基本的な取り扱いを学ぶところからスタートしました。慣れてきたところで今度はiPS細胞から造血幹細胞を作って、そこからリンパ球の元になる細胞を作り、最終的にNK細胞を作れるようになりました。
また、iPS細胞から肝臓の中のNK細胞と同じくらい強いNK細胞を作ることを考えていますので、どうやったら強くなるか、どうやったら肝臓の中のNK細胞に近づけられるかというのを含めて、いろいろ検討していなければなりません。その一つとして、金子研で作られているNK細胞と肝臓の中にあるNK細胞を比べて、肝臓の中のNK細胞に出ている、がんを感知するレセプターが金子研のNK細胞にも出ているか否かという解析もしました。
あと、金子研で週1回開催されているミーティングにも参加させてもらいました。大学院生や研究員の方が持ち回りで発表をしていくんですけど、発表を聞いて金子研のレベルの高さを感じました。iPS細胞の再生医療のプロフェッショナル集団、特に免疫細胞に特化した研究者が集まっていますので、一つのメカニズムに対する知見ですとか、どのようなことが予測されるかということなど、我々よりも一歩先が見えていると感じました。このような環境で勉強できたのはすごくいい経験になりました。
それとともに、発表を聞いていて、iPS細胞を使った免疫療法の開発の進み具合に正直驚きました。これまで治らなかった患者さんが助かる未来が近いのかもと感じ、一人の臨床医として喜ばしく思いました。
今後の目標を教えてください。
移植医療というのはすごく特殊で未解明な部分も多いので、臨床を続けつつ研究も続けていきたいです。外科医として手術の腕を磨きながら研究に携わるのは、時間的にも体力的にもすごく難しいことではあるんです。しかし、外科医として患者さんに一番近いところにいる存在であり続け、患者に必要なものが何なのかというのを感じ、その必要なものを研究開発できたらと考えています。臨床医としてその研究の効果を一番身近なところで感じることもできると思うんです。手術と研究の両立というのを将来目指していきたいです。
注1)ナチュラルキラー(NK)細胞
免疫においてはたらく細胞の一種。NK細胞は抗原特異的な免疫反応を示さず、非特異的に細胞を傷害するといった免疫反応(自然免疫)をする。
注2)免疫賦活療法
免疫力を増強させて体内の免疫環境を改善し、がんを治療する方法
-
取材・執筆した人:三宅 陽子
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター