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2025年2月25日
小さな世界に秘められた大きな可能性を追って

イ・スジさん
「細胞って、とても小さな世界なのに、その中に大きな世界が詰まっているんです」と、イさんは語ります。子どもの頃から「こんな小さなものにこんな素晴らしいシステムがあるんだ」と細胞が持つ可能性に魅力を感じ、大学で生物学を専攻。
「宇宙のことがまだわからないように、身近である私たちの体の中にもまだ解明されていないことがたくさんあります」とイさん。iPS細胞という重要な技術を使って新しいものを生み出したい——。その思いが、彼女をゲノム編集の道へと導きました。
現在は、iPS細胞を使い、ヒトゲノムを広い範囲で編集する技術開発に取り組みます。「病気の原因となる遺伝子変異を持つiPS細胞を作るとき、変異1カ所だけでなく、その変異と一緒に観察される周辺の塩基配列も編集することでより正確な疾患モデルを作れます」とイさんは話します。
私たちの体にあるゲノム。そこで起きている現象から開発のアイディアを得て、さらに研究を進める過程で新たな発見が生まれていきます。未知と出会える良いサイクルができている、とイさんは考えています。

オープンラボにて
研究や仕事のやりがいについて尋ねると、「新しい仮説を立てて、一つずつ証明していくことが好きなんです」と目を輝かせます。「例えば今やっている研究では、ヒトの細胞の中で自然に起きているゲノム損傷を治すメカニズムについて、どの操作をすればiPS細胞でも再現できるか方法を見つけています。予想していた結果が出てきたとき、やりがいを感じます」と話します。
過去には、何の機能も持たないと考えられていたDNAの領域に大事な役割があったことが発見されてきました。ゲノムには、まだ知られていないことがたくさんあります。イさんも、これまでの認識をくつがえす新たな発見ができれば、大きなやりがいになりそうだと語ってくれました。
また、研究室には学生も多く、実験の方法を共有したり、トレーニングに付き添ったりと教育面にも関わっているイさん。「一人前の研究者として成長していく姿を見守れることも嬉しいですね」と、次世代の研究者を育てることも大切にしています。
「研究は複雑になればなるほど、それを分かりやすく伝えることが大切です」と話すイさんは、子どもから高齢者まで幅広い世代に研究を紹介するイベントにも参加しています。最近は、バナナからDNAを取り出す実験を通じて、目に見えないゲノムを身近に感じてもらう機会がありました。
「サイエンスは研究者がいるからこそ回っていく世界ではあるんですけれども、皆さんにわかってもらって価値がさらに上がるものだと思うので」と、自身の研究について外へ伝えていくことの意義を語ります。「ゲノム編集は怖いイメージを持たれがちですが、私たちの体の中で起きている不思議な現象を理解するためのツールでもあります。ゲノム編集技術を用いて初めて知れる深い世界がまたある。その面白さをもっと多くの方に知ってほしいですね」
一つひとつの発見を積み重ねながら、医療への応用を目指す。小さな世界に秘められた大きな可能性を追い求めるイさんの日々は、まだまだ続きます。

実験中のイ・スジさん
- 取材・執筆した人:吉野 千明
iPS細胞研究所で実験に従事するかたわら、PRライターとして活動。大学や企業、地域の魅力を言葉にして届けている。オウンドメディアやプレスリリース、インタビュー記事、書籍執筆など200本以上の制作実績を持つ。