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2026年10月15日

iPS細胞20周年特集 第3回 iPS細胞ストックが拓いた再生医療

iPS細胞誕生20周年を記念し、iPS細胞研究の発展を支えてきた6人に、これまでの20年と次の20年の展望を聞く本特集。全6回の第3回は、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)の高須たかす直子なおこ 専務理事です。

高須 直子 専務理事
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団

 2006年にiPS細胞の論文が発表された当時、私は製薬企業で知財を担当していました。2003年頃から山中先生の研究に関する共同出願を担当しており、山中先生から「ES細胞のような細胞をつくる」という構想を伺っていたので、論文が発表されたときには「本当に実現したんだ」と非常に驚きました。この技術が20年後にここまで発展し、実際に患者さんへ投与されるところまで進むとは、当時は想像もしていませんでした。

 山中先生にお声がけいただき、2008年に京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)iPS細胞研究センターへ移り、知財担当として仕事を始めました。研究者や学生と日々話し合いを重ねながら、iPS細胞研究の現場に知財の重要性が浸透していく様子を間近で見られたことは、大きなやりがいでした。その後、iPS細胞実用化に向けた規制、契約、倫理などを担うCiRA医療応用推進室の室長となり、再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトを進めることになりました。そして、山中先生からiPS細胞ストックプロジェクトのリーダーにならないかとお声がけいただき、自分に務まるだろうかと悩みましたが、「最終的な責任は私が取ります」という山中先生の言葉に背中を押され、覚悟を決めました。

 患者さんに投与できる医療用のiPS細胞を備蓄するというiPS細胞ストックの構想はCiRA設立時からあり、2013年からプロジェクトとして本格始動しました。医療用iPS細胞を作ることは、前例のないことばかりで、乗り越えなければならない課題が多くありました。iPS細胞樹立のために血液を提供いただくドナーを募集する仕組みや、医薬品レベルの品質で製造するGMP製造体制など、すべてを一から築き上げていかなければなりませんでした。日本赤十字社やさい帯血バンク、骨髄バンクをはじめ、多くの方々の協力を得ながら、CiRAの限られた人材の中で、精いっぱい力を合わせて進めていけたことが、今でも強く印象に残っています。

 2015年に初めてiPS細胞ストックを出荷したときは、大きな喜びと同時に、「きちんと使っていただける細胞だろうか」という緊張もありました。一方で、これまで多くの研究者から寄せられていた「早く医療用のiPS細胞を使いたい」という期待に応えられたことに、少しホッとしたことも覚えています。その後、研究者から「臨床試験が始まりました」「重篤な有害事象は確認されていません」といった報告を受けるたび、自分のことのようにうれしく感じました。

 現在、iPS細胞ストック事業は公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)に移管され、「患者さんにiPS細胞を届けるための基盤を整備する」という使命のもと、事業が進められています。iPS細胞ストックはすでに100を超える研究機関で利用され、iPS細胞を用いた再生医療研究を支えています。今後は、iPS細胞ストックの提供に加え、患者さん自身の細胞から低コスト・短期間でiPS細胞の作製を目指すmy iPSプロジェクトの実現や、iPS細胞から目的の細胞までを一貫して製造する技術の開発・自動化にも取り組み、より多くの患者さんにiPS細胞を用いた医療を届けられる環境を整えていきたいと考えています。

  1. 取材・執筆した人:三宅 陽子


    京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター

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