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2026年11月6日

研究者に寄り添い、発明を知財に「翻訳」する

釜平 かまひら 双美 ふみ さん

CiRAの研究成果を知財として守り、社会実装を支える医療応用推進室 知的財産戦略グループ。研究者に寄り添いながら発明の本質を見極め、知財という形へ発明を「翻訳」しています。iPS細胞作製の土台となる初期の特許は、2006年の出願から20年経ち、2026年に満了を迎えます。節目となるいま、グループ長を務める釜平双美さんに、研究支援への思いを伺いました。
最先端研究から「発明の本質」を探る

 医療応用推進室 知的財産戦略グループは、CiRAで研究成果として生まれた発明を早い段階で特許出願し、権利化を目指すのが主な仕事です。研究者から「こんな結果が出ました」「論文発表の前に出願したほうがいいですか」と相談を受けると、関連する論文や技術を調べながら、どこが特許になり得るかを探っていきます。研究成果が公開された後では、その内容について原則として特許を取得できません。だからこそ、研究の進み具合や発表の予定を踏まえながら、「この段階で出願しましょう」と知財の観点から提案します。出願書類は特許事務所の弁理士に依頼するため、研究者の意図がぼやけないよう技術をわかりやすく整理して橋渡しする役割も担っています。

 大学の研究が「真理の解明」を目指すものだとすると、特許では、研究成果を社会で活用するため、どこに技術的な価値があるのかを見極めていきます。研究者の着眼点と重なる部分もあれば異なる部分もあるなかで、特許になり得る「切り込みどころ」を探すことに、この仕事の面白さがあります。

 例えば研究では、薬剤や治療法が「なぜ効くのか」という仕組みを明らかにすることが重視されます。一方、産業では「効く」という事実が重要です。ある疾患に効くことがわかっている技術が、別の疾患にも有効だと新たにわかれば、それも新たな技術として社会で活用できる可能性があります。そうした視点から研究成果を見つめ、研究者との対話を重ねながら、発明の本質を知財として形にしています。

発明を支える仕事へ

 私はもともと殺虫剤などを製造する日用品メーカーで研究職をしていました。研究室でうまくいったことを製造現場で実現しようとしても、思い描いた通りに進まないことがあります。そのたびに、さまざまな人のアイデアに助けられました。「無から価値を生み出せる、発明力のある人はすごい。アイデア力がある人がきちんと評価される社会であってほしい」。尊敬の思いがきっかけとなり、発明する人を支える仕事がしたいと、弁理士を志しました。その後18年間にわたって特許事務所のライフサイエンス部門で、主に製薬企業の知財に携わってきました。

 仕事で大切にしているのは、研究者の考えや方向性を十分に理解し、知財という形へ発明を「翻訳」することです。研究者は研究の専門家であり、知財にはまた別の専門性があります。わからないことは研究者たちに教えていただきながら、研究を知財として守れる形にしたいと考えています。大学という大きな組織では、知財グループだけでできることは一部です。そのため、他部署との連携も欠かせません。携わる皆さんの思いや考えを想像しながら対話する姿勢を大切にしています。

研究成果を社会へ届ける知財戦略

 発明を知財へと「翻訳」した後は、その成果をどのように社会へ届けるかが重要になります。そのために欠かせないのが、特許をどのように活用するかという知財戦略です。

 iPS細胞のような基盤技術は、一社が独占していると技術の広がりが限られてしまいます。そこで京都大学が特許を取得し、多くの企業が活用しやすいライセンス条件にすることで、技術の発展を後押ししてきました。一方で、技術によっては一社が腰を据えて投資し、開発を進めたほうが社会実装につながる場合もあります。技術の性質によって、最適なライセンスのあり方は異なります。

社会実装が生んだ、新たな一歩

 今年、パーキンソン病や重症心不全に対するiPS細胞由来の再生医療等製品が条件及び期限付きで承認されました。今回いちばん意義を感じているのは、京都大学のiPS細胞の基盤技術が、実際に企業の製品として活用され、承認を受けるところまで来たことです。これを受け、京都大学は、今年満了を迎えるiPS細胞の基盤技術に関する特許について、特許権存続期間延長登録の出願をしました。医薬品や再生医療等製品は、開発や審査に長い時間がかかり、その間は製品として販売することができません。そのため、承認を得て販売できるようになった時点では、特許の残り期間が短くなっていることがあります。そこで、販売などができなかった期間を補う特許権存続期間の延長制度があるのです。

 大学が特許を持ち、企業が承認を受けて存続期間の延長登録出願をしたケースは、私自身初めてでした。企業にもたくさん協力していただきましたし、関係部署の皆さんにも支えていただきました。そのなかで、承認を受けた企業の担当者から「CiRAの研究者の発明への敬意です」という言葉を受けたのが、とても印象に残っています。

研究者に寄り添う知財グループへ

 「困ったら知財グループに相談しよう」そう思ってもらえる存在でありたいですね。そのためにも、研究者たちに知財へ関心を持ってもらうことも大切だと考えています。研究室向けに知財の基礎を説明したり、それぞれの研究に関係しそうな情報を提供したりすることで、「こんなデータがあれば特許を取りやすくなるかも」と思っていただける取り組みにも力を入れていきたいです。

 チーム運営では、ワークライフバランスと、質を落とさない効率化を意識しています。知的財産戦略グループは仕事が好きなメンバーが集まっているので、その気持ちに応えられる環境をつくっていきたいです。それが、研究所全体の相談しやすさやコミュニケーションの取りやすさにもつながると考えています。

 CiRAは、「患者さんのため」という姿勢を強く感じる場所です。「一刻も早く病気を治したい」という研究者たちの思いを、私たちも知財の立場から支えていきたいです。

  1. 聞き手・執筆した人:吉野 千明
    京都在住のフリーランスライター・講師。約10年間、企業や大学、研究所での検査・実験業務に従事。現場を知るサイエンスライターとして活動する。インタビュー記事やプレスリリース、オウンドメディア、書籍執筆など300本以上の制作実績を持つ。
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