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2025年12月19日
齋藤潤教授のCiRAメディア勉強会をハイブリッド開催しました
11月25日(火)の午後、「iPS細胞を用いた血球細胞の分化誘導法開発とがん治療研究」をテーマにメディア関係の方を対象とした勉強会をハイブリッド形式で開催し、13名の方にご参加いただきました。
CiRAメディア対象勉強会は、メディア関係の方にiPS細胞を用いた研究の取り組みについてより正確にご理解いただくとともに、CiRAの研究者とメディア関係の方との情報交換と信頼関係を構築することを目的に開催しています。
今回は、齋藤潤教授が登壇しました。齋藤教授は小児科医でもあり、希少・難治性疾患の患者さんの診断や治療に貢献することを目指して研究を進めています。そのためのアプローチとして、iPS細胞を用いた疾患モデリング(病態の再現)を行い、病気の仕組みの解明や治療法開発を行っています。また、研究の基盤となっているのが分化誘導法の開発であり、iPS細胞から血球系細胞や神経系細胞の分化誘導の開発に取り組んでいます。
「分化」とは何か
最初に、細胞の「分化」とは何かという説明がありました。分化とは、まだ特定の役割を持っていない細胞が、神経細胞や血球細胞など、特定の役割を持つ細胞へと変化していくプロセスです。分化プロセスを知ることは細胞生物学の重要な研究テーマです。また、分化の仕組みを深く知ることで、iPS細胞を目的の細胞に分化誘導する技術が開発でき、逆にiPS細胞の分化誘導技術から分化の仕組みを解明することも出来ます。
齊藤教授によると、iPS細胞を用いて分化誘導技術を開発する上で、「どのiPS細胞でも安定して分化できるか」「十分な細胞数を確保できるか」「体内の細胞と同等の機能を持つか」「コストを抑えられるか」など、多くの課題があります。そのため、現時点での分化誘導法はまだ完成形ではなく、継続的な改良が不可欠であることが強調されました。
記者に向けて説明をする齋藤潤教授
血球分化の「最初のイベント」を探る
次に、血液細胞の分化が始まる際に、細胞内でどのような変化が起きているのかを明らかにする研究について紹介しました。
齋藤教授の研究グループは、血液細胞が作られるかなり早い段階で、血液細胞の分化に必要な遺伝子の働きを制御するエピゲノム注1)の変化が起きていることを明らかにしました。さらに、ZEB2やMEIS1といった因子が、血球分化を開始するうえで重要な役割を果たすことを見いだしました。これらの成果は、血球分化の仕組みの理解を深めるだけでなく、分化メカニズムの理解と分化誘導法の改良につながることが期待されます。
iPS細胞由来マクロファージ注2)によるがん治療研究
最後に、血球分化研究の成果を応用したがん治療研究について説明しました。現在、臨床で使われているCAR-T細胞療法は血液がんに高い効果がありますが、固形がんに対しては、腫瘍内部へ浸潤しにくく、副作用の課題もあります。そこで齋藤教授らの研究グループは、腫瘍組織へ入り込みやすいマクロファージに着目しました。
iPS細胞から、がん細胞を認識する分子(CAR)を導入したiPS細胞由来CARマクロファージを作製し、動物モデルにおいて抗腫瘍効果を示しました。特に、乳がんや卵巣がん、胃がんなどで認められるHER2陽性腫瘍細胞を対象とした研究では、腫瘍の抑制や生存期間の延長が確認されており、固形がん治療の新たな選択肢となる可能性が示されました。齊藤教授は、iPS細胞由来マクロファージのさらなる改良や安全性評価を進め、将来的な臨床応用を目指すと話しました。
メディア勉強会の様子
参加者からは、「分化誘導の細かい仕組みが理解できた」「がん治療について、CAR-Tの他にもマクロファージで同じアプローチがされていることなど初めて知った」などの感想をいただきました。
CiRAでは今後もメディアの方に向けた勉強会など、イベントを開催して参ります。メディア向け勉強会にご興味をお持ちの報道関係者の方がいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームより、お問い合わせください。
注1)エピゲノム
DNAの配列そのものは変化させずに、遺伝子のはたらきを決めるしくみの集まり。化学的修飾によって遺伝子の発現パターンに影響を与えることができる。
注2)マクロファージ
白血球の一種であり、全身の組織に広く分布している。食作用や抗原提示による免疫機能を担う他、組織の修復に重要な役割を果たすことが知られている。
