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2026年2月12日
【イベント報告】メディア勉強会「研究者が語る胚モデル研究の現在地」を開催しました
2025年10月17日(金)にメディアの方を対象とした勉強会を行いました。今回のテーマは、研究の難しいヒト胚発生に迫る新たな研究手法として近年注目を集めている「胚モデル研究」です。
当日は未来生命科学開拓部門の髙島康弘教授と上廣倫理研究部門の藤田みさお教授が話題提供しました。現地会場とオンラインでのハイブリッド形式で開催し、新聞社やテレビ局などのメデイアから15名の記者らが参加しました。
今回のテーマとして取り上げた胚モデルは、厳格なルールの下で慎重な利用が必要となるヒトの受精卵を使うことなく、私たちヒトの発生を明らかにする新たな研究アプローチとして期待されています。一方で、胚モデルをつくる技術が進んでいくことで、受精卵から形作られる本当の「胚」と区別がつかなくなってしまう可能性などが考えられます。こうしたことから、どのように研究を進めていくべきなのかについて各国で倫理的な検討が行われています。
今回は、この胚モデルの研究について、生命科学と倫理、それぞれの視点から話題提供を行いました。
髙島教授は、冒頭にマウスとヒトの胚の写真(下記写真参照)を参加者に見せ、どちらがヒトの胚か問いかけました。一見すると全く違いがわからないこともあり、会場の回答は割れました。
発生初期ではマウスとヒトの違いが見えにくく、これまでは哺乳類の発生はマウスを用いて多く研究されてきたことや、ヒトの発生を理解する基盤となっていることを紹介しました。
マウスとヒトの胚について説明する髙島教授
しかし、マウスとヒトでは発生の仕組みが全く同じというわけではありません。髙島教授は、解析技術などの高度化によってヒト胚の発生を研究する環境が整いつつあると語りました。ES細胞の樹立などのために、これまでにも不妊治療で使用しなかった余剰胚を研究に使用した例はあります。しかし、そのような研究は、倫理的な観点から厳格なルール下でのみ許可されており、研究者がヒトの発生を調べるためには使いにくい状況がありました。
近年になり、iPS細胞などの幹細胞から胚を構成する細胞を培養皿上で誘導し、胚に似た立体的な構造をもつ細胞の小さな集合体をつくる胚モデルの技術が登場しました。ヒトの受精卵を使用することなくヒトの胚の発生を研究することができ、新たな研究の方法として多くのグループがこの方法で研究をしています。
髙島教授は、これまでに開発していた「ナイーブ型」のヒトiPS細胞・ES細胞から、胚モデル「バイラミノイド」を開発した研究成果(CiRAニュース 2023年12月6日)について紹介しました。ナイーブ型とは、「プライム型」と呼ばれる通常のヒトiPS細胞に対して、より発生時期が受精卵に近い、早期の細胞の状態のことを指します。髙島教授らはこのナイーブ型iPS細胞・ES細胞を活用することで、より初期の胚の状態からの発生を再現したヒトの胚モデル、バイラミノイドを開発することができました。さらに論文のなかで、この胚モデルを作ったことだけでなく、胚モデルを使って、実際のヒト胚の初期発生の仕組みの一端を解明したことを報告しました。これは、胚モデルがヒトの発生を理解する研究ツールとしての有用性をもつことを示す重要な成果と言えます。
髙島教授は、「今後、胚モデルに加えてAIや最先端の解析技術なども用いることで、ヒトの発生を総合的に理解する研究プロジェクトを進める」と語りました。ヒトの発生を科学的に一つ一つ理解することができれば、iPS細胞から作製することが依然として難しい臓器の作製のヒントや不妊症や流産、先天性疾患の理解や創薬につながると述べました。
今後の研究プロジェクトについて説明する髙島教授
藤田教授は、これまでのヒト胚モデル研究を取り巻く倫理的な議論の流れや、議論で重要となる観点を紹介しました。冒頭に、「生命科学研究の倫理的課題とは、研究するべき理由がある一方で、懸念する理由もあるような価値の対立がみられる場面で、どのようにバランスをとりながら研究を進めていくのが良いのかを考えていくこと」と説明しました。
「倫理」というと、研究を進めるときの「壁」のように思えるかもしれません。CiRAでは、iPS細胞という新しい技術によって可能になる研究や医療を適切な形で社会につないでいくため、研究の段階から倫理の観点でも検討を行うため上廣倫理研究部門が設置されています。
藤田教授は、ヒト胚モデルの倫理的課題として、ヒト胚への類似性の増大、つまり、胚モデルがより本物らしくなることに加えて、2点あると説明しました。一つはヒト胚モデルが新しいものなので、法律や研究のルールの上で位置付けが曖昧になっていることです。そして、もう一つが培養期間の設定をすることです。
記者に対して説明を行う藤田教授
本物の胚では、受精卵から培養できる期間が規制上、重要な意味を持ちます。それは、ヒトの胚が発生を進めていくことで、胎児へと成長し、痛みを感じるようになったり、見た目がヒトに似たりすることで一つの「生命」「個体」としての姿形が徐々にはっきりとしてくるからです。発生は連続的なもので、明確な線引きができませんが、これまでは、受精から14日を超えて培養をすることを禁止するルールが世界的な標準となっていました。
現在、ヒト胚の培養における日数の見直しや、日数だけで規制するあり方を見直す議論が出ています。研究でどの発生段階まで培養することが研究の意義に照らして許容しうるのかが重要なことには変わりありません。胚モデル研究では「受精」という日数を数える起点が存在しないため、どの発生段階までであれば研究して良いかは考えておく必要があります。
藤田教授と髙島教授は、この新しいヒト胚モデル研究のあり方について、国などが主導する議論に専門家として参加してきました。この議論で当面のルールがまとまり、パブリックコメントを経て、今後、倫理的な指針や研究で必要な倫理審査などの手続きなどに反映されていきます。
勉強会に参加した記者からは、髙島教授が研究に使っているナイーブ型iPS細胞について、藤田教授には海外での議論の状況について質問をいただきました。
記者からの質問に答える藤田教授と髙島教授
藤田教授は、胚モデル研究の倫理的な課題の議論はこれからも続くと言います。今後、ルールが整理されたことで、ヒト胚モデル研究が本格的に進められるようになります。同時に、より具体的な課題に取り組む必要性や、技術の進歩により、また新たな倫理的な課題が生じる可能性が出てくるとみられます。
CiRAでは、今後もiPS細胞を活用したヒト胚モデル研究の状況や、そのほかの研究開発について、皆さんに情報をお届けしてまいります。報道やCIRAからの情報発信を通じて、研究を身近に感じていただければ幸いです。
髙島教授による「ナイーブ型ヒト多能性幹細胞(iPS細胞・ES細胞)」の開発秘話を紹介しています。
髙島教授による「ナイーブ型ヒト多能性幹細胞(iPS細胞・ES細胞)」の開発秘話を紹介しています。
ヒト胚モデルについて考えるうえで重要となる、ヒトの発生を理解することの意義・必要性やヒト胚を使った研究の倫理について詳しく紹介しています。ヒトの生命の始まりを研究することについて、科学と倫理の観点から3名の研究者が語りあったイベントの報告記事です。
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