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2015年3月4日

パーキンソン病の細胞移植法研究に有効なモデルラットを開発

細胞移植治療法の研究をするには、移植による拒絶反応が起こらないようにした、免疫不全動物(注1)が重要な役割を果たしています。2010年にX-SCID(注2)ラットと呼ばれる免疫不全ラットが作製されました。CiRA臨床応用研究部門高橋淳教授のグループは、この免疫不全ラットがパーキンソン病(注3)の細胞移植治療法開発に有用であるかどうかを検証し、X-SCIDラットが有効な動物モデルであることを見出しました。

これまでに用いられていた通常のパーキンソン病のモデルラットでは、細胞を移植すると免疫拒絶がおきるため、免疫抑制剤を用いることが必要で、通常、シクロスポリンAという抗生物質を投与しています。しかし、シクロスポリンAは、神経前駆細胞の神経分化を妨げ、さらには、腎臓や肝臓に細胞毒性を引き起こすという問題がありました。一方、X-SCIDモデルラットは、免疫シグナルに応答する受容体に欠陥があります。つまり、このモデルラットは免疫反応を起こさない可能性があると考えられました。

そこで、高橋グループは、シクロスポリンAやその他の免疫抑制剤を使わなくても、ヒト神経細胞がX-SCIDラットの体内に生着するかどうかを調べました。

ヒトES細胞(注4)およびヒトiPS細胞(注5)からドパミン神経細胞(注6)を作製しX-SCIDラットの脳に移植しました。野生型ラットでは拒絶反応のために移植細胞が生着しなかったのに対し、X-SCIDラットでは全く拒絶反応が見られず、多くのドパミン神経細胞が生着していました。

移植した神経細胞の生着を観察するだけは、X-SCIDラットが優れたパーキンソン病モデルになるとは言えません。研究グループは、次にX-SCIDラットを用いてパーキンソン病のモデルラットを作製し、ドパミン神経細胞をこのX-SCIDモデルラットに移植し、やはり移植細胞が脳内に生着し、症状が改善することを見出しました。

高橋教授は、「今回の研究結果は、X-SCIDラットが異種移植(注7)に対する免疫反応が低いことを示しました。細胞移植の非臨床試験を実施するにあたり、パーキンソン病モデル用の動物として有用であることを示しています」と述べました。


X_SCID_JTakahashi.jpg

図中の黒い部分が免疫細胞が集まっている箇所を示す。X-SCIDラットに細胞移植した場合、野生型ラットに免疫抑制剤のシクロスポリンAを用いた場合(CsA)と同程度の拒絶反応しか示さなかった。 (移植1週間後)

Wild:野生型ラット
CsA:野生型ラットにシクロスポリンAを用いたもの
Nude:ヌードラット(免疫がないラット)
X-SCID:X-SCIDラット



<論文情報>

Samata et al. (2015) X-linked severe combined immunodeficiency (X-SCID) rats for xeno-transplantation and behavioral evaluation. Journal of Neuroscience Methods http://dx.doi.org/10.1016/j.jneumeth.2015.01.027

 

<用語説明>

(注1) 免疫不全動物
免疫機能が低下している動物。このような動物は異種の細胞を移植しても拒絶反応を起こさずに体内に生着するため、動物実験に用いられます。ヒトの細胞を免疫不全動物に移植し、動物の体内でヒト細胞の機能等を研究することを可能にしています。

(注2) X-SCID
X-linked severe combined immunodeficiencyの略。T細胞とB細胞両方の機能が低下した重症免疫不全。このような性質をもつ動物を用いて異種の細胞移植などの実験が行われている。

(注3)パーキンソン病
脳内の中脳黒質にあるドパミン神経細胞が減少することにより起こる病気。体がふるえたり、動作が緩慢になったり、からだのバランスをとることが難しくなる等の症状が現れます。 根治療法の開発がまたれる難病の一つです。

(注4) ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic stem cells)。ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができる。しかし、受精卵を破壊する必要があるという倫理的問題がある。また、患者自身の細胞から作製することが困難なため、免疫拒絶の問題が指摘されている。

(注5) iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に山中教授の研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。

(注6) ドパミン神経細胞
神経細胞の一種で、神経伝達物質としてドパミンを放出する。多くのパーキンソン病では、中脳黒質にあるドパミン神経細胞の変性が見られる。

(注7)異種移植
種が異なる動物間で行う移植のこと。異種移植では強い拒絶反応が起こる。

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