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2019年4月23日

筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした治験開始について

1. 要旨

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授らは、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象としたボスチニブ第1相試験注1」を計画してきました。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出し、この度、京都大学医学部附属病院(治験責任医師 脳神経内科髙橋良輔教授))、徳島大学病院(治験責任医師 神経内科和泉唯信特任講師)、北里大学病院(治験責任医師 脳神経内科永井真貴子講師)、鳥取大学医学部附属病院(治験責任医師 脳神経内科渡辺保裕講師)にて、医師主導治験を開始する運びとなりました。そこで、治験開始について下記の通り発表いたします。

2. これまでの研究

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン注2が変性して筋萎縮と筋力低下を来す進行性の疾患で、治療薬としてリルゾールやエダラボンが使用されています。しかし、ALSは根本的治療が難しい疾患であり、さらなる治療薬の開発が求められています。

 CiRAの井上治久教授らは、ALS患者さん由来のiPS細胞を運動ニューロンへ分化させ、その細胞を用いて、既に他の疾患で治療薬として用いられている物質を含むさまざまな種類の化合物の中から運動ニューロンの細胞死を抑えることができる化合物のスクリーニング注3を行いました。その結果、細胞死を防ぐ物質としてボスチニブを同定し報告しました。ボスチニブ(販売名:ボシュリフ®錠)は、前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている既存薬ですが、ALSの病態である、細胞内の異常タンパク質蓄積を抑制する働きと運動ニューロンの細胞死を抑制する働きを示すことが、ALS患者さんのiPS細胞モデルとALSモデルマウスで認められています。

3. 経過
平成31年3月1日 治験計画届書を提出
平成31年3月18日 治験開始

※患者さんの組み入れ開始時期は各実施施設によって異なります。

4. 治験計画の概要

(1) 治験課題名
「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象としたボスチニブ第1相試験」

(2) 治験の目的
ボスチニブは慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている既存薬ですが、ALS患者さんにおける安全性は明らかにされていないため、本治験では、ALS患者さんに対するボスチニブの安全性および忍容性注4を評価することを目的としています。

(3) 試験デザイン
多施設共同で非盲検試験注5を行います。
ALS患者さんに1日1回、12週間にわたってボスチニブを内服していただきます。

(4) 主な適格基準

【選択基準】

  1. 同意取得の年齢が20歳以上、80歳未満の患者
  2. ALS診断基準(Updated Awaji基準)でDefiniteまたはProbableまたはProbable‐laboratory supported ALSと診断された孤発性ALS患者
  3. 厚生労働省特定疾患調査研究班によるALSの重症度基準で重症度1度または2度の患者
  4. 一次登録時において発症後2年以内の患者
  5. 観察期間中に、ALSFRS-Rの合計点数が1~3点低下した患者


【除外基準】

  1. 気管切開を施行している患者
  2. ALSの症状により非侵襲的呼吸補助装置を装着したことがある患者
  3. 一次登録時および二次登録時に%FVCが70%未満の患者
  4. エダラボンを投与中の患者。観察期間開始後にリルゾールまたはエダラボンの投与を開始した患者、もしくはリルゾールの用量を変更した患者
  5. 球麻痺型のALS患者
  6. 認知機能障害を有する患者


適格基準に関する詳細は以下のページをご覧ください。  尚、外来通院ができない方、経口内服ができない方、人工呼吸補助装置を使用中の方は対象となりません。


(5) 目標症例数
24例

(6) 治験実施機関
京都大学医学部附属病院、徳島大学病院、北里大学病院、鳥取大学医学部附属病院の4機関で実施致します。

(7) 治験に関するお問合せ先
治験調整事務局コールセンター(CiRA内)TEL:075-366-7361(平日10:00~12:00)
メールアドレス:ct-als*cira.kyoto-u.ac.jp
(お手数ですがメール送信の際*を@に変えてください。)
※4月23日よりコールセンターの受付時間が変わりましたのでご注意ください

(8) 備考
本治験に関する詳細につきましては、以下のサイトをご覧ください。

5. 治験実施体制
  1. 研究代表者
    京都大学iPS細胞研究所 井上治久 増殖分化機構研究部門 幹細胞医学分野 教授
  2. 治験調整事務局
    治験調整医師:徳島大学病院 和泉唯信特任講師、京都大学iPS細胞研究所 井上治久教授 京都大学iPS細胞研究所、イーピーエス株式会社
6. 本治験の支援

本治験は、下記機関より支援を受けて実施されます。

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)臨床研究・治験推進研究事業
    「患者レジストリを活用した筋萎縮性側索硬化症治療薬開発のための医師主導治験」

本治験の治験薬は、下記機関より提供を受けます。

  1. ファイザー株式会社
7. 用語説明

注1)第1相試験
治験は、第1相試験から第3相試験までの3段階で行われる。第1相試験においては、少数の被験者を対象に、薬の候補物質の安全性を検討することを主目的とする。少量の投与量から始めて、安全性を確認しながら順次予定していた投与量まで増やしていくことも行われる。第2相試験においては、第1相試験の結果をもとに比較的少数の被験者を対象に薬の候補物質の効果や安全性、投与方法などを検討する。第3相試験においては、前の試験で得られた結果をもとに、より多くの被験者を対象に効果や安全性の試験を行う。

注2)運動ニューロン
脳からの司令を骨格筋に伝える神経細胞のこと。突起を長いものでは数十センチにも伸ばして信号を伝えている。ALSの患者さんではこの神経細胞が変性・死滅することで骨格筋が動かせなくなる。

注3)スクリーニング
多数の化合物の中から有効な化合物を見つけること。

注4)忍容性
薬の副作用が被験者にとってどれだけ耐えられるものであるかの程度。

注5)非盲検試験
治験を行う際に、被験者がどの程度の用量の治験薬を投与されているかなど、どのような医療介入を受けているかを被験者自身および治験担当医師や治験コーディネーターなどの治験にかかわる病院の医療関係者がわかっている試験法。

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