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2023年5月23日

免疫応答は高齢者と成人でどう違う?
T細胞に着目して解析

 iPS細胞研究所(CiRA)では、iPS細胞をはじめ、さまざまな生命科学の研究をしています。今回紹介するのは、免疫に関する基礎的な研究成果についてです。免疫とは、外から入ってくる有害なもの(ウイルスやアレルゲンなど)に対処する体のしくみのこと。有害なものが体に入ってきたときに、免疫細胞がアクションを起こすことを「免疫応答」と呼びます。

 新型コロナウイルス感染症のまん延により、ワクチン接種が勧められてきました。大勢の人が同じタイミングでワクチンを打つ機会は、滅多にありません。この機会を活用し、CiRAの濵﨑洋子教授の研究グループは、ワクチン接種後、高齢者と成人の免疫応答にどのような違いが見られるのか解析しています。

免疫機能は年齢で変わる?

 新型コロナウイルスに感染したときの重症化リスクは、若年者よりも高齢者で高くなるとよく耳にします。リスクが高くなる原因の1つは、免疫機能が年齢とともに低下するためです。体内でウイルス排除の役割を担うT細胞は、加齢とともに作られる量が減ります。T細胞が減ると、体を守るための機能がうまく回らず、重症化につながりやすくなるのです。

 一般的に重症化を避けるための手段には、ワクチン接種があります。新型コロナウイルスのmRNAワクチンについても、高齢者を含め、感染や重症化の予防に有効です。しかし、ワクチンの効果は体の免疫機能を活用し、ウイルスに対抗する体に整えていくことで発揮されます。免疫機能が低下した高齢者がワクチンを接種しても、作られる抗体の量は低い傾向があり、効果は限定されるとの報告もあるのです。

 T細胞には、抗体を作る細胞の働きを助けるヘルパーT細胞や、ウイルス感染した細胞を直接攻撃するキラーT細胞があります。有害なものが体に入ってきたときに、これらのT細胞の応答が加齢によってどのように変化するのかはまだわかっていないことです。

 そこで今回、基礎疾患がない日本人を対象に、mRNAワクチン接種後の免疫応答を調べました。T細胞の応答は年齢によってどのように変わるのでしょうか。

ワクチン接種の機会を利用した調査

 今回のワクチン接種は、多くの人が同じ刺激を受ける珍しい機会です。まず研究グループは、調査の協力者を募りました。協力対象者は、ファイザー社製の新型コロナワクチンを接種予定で、過去に新型コロナウイルスに感染歴がない20歳以上の日本人です。特に65歳以上の高齢者については、CiRAのホームページでも掲載し、広く募集をしました。

協力者の条件
  • 新型コロナウイルスワクチン
    (ファイザー社製)を接種予定の人

  • 新型コロナウイルスに感染歴のない人

  • 健康な20歳以上の日本人

 実際に集まった協力者は23〜63歳の成人107名、65〜81歳の高齢者109名となりました。

 協力者には京大病院への通院をお願いし、1回目のワクチン接種前から接種後3ヶ月までの期間で、計4回にわたり血液検査や副反応を調査しました。

調べ方
  1. 血液採取(以下のタイミングで計4回)
  • ワクチン接種前

  • 1回目接種から2週間後

  • 2回目接種から2週間後

  • 1回目接種から3ヶ月後

  1. ワクチン接種後、副反応の聞きとり調査
調査でわかったこと
  1. 高齢者はワクチン接種後の抗体量が少ない

 2回目のワクチン接種後では、年齢に関わらず抗体量が大幅に上昇しました。ここでの抗体量とは、新型コロナウイルスにくっついて感染を防いでくれる抗体の量のことです。2回目接種後の抗体量(中央値:データの真ん中の値)は、成人よりも高齢者のほうが40%程度低い値を示しています(成人:19,000、高齢者:11,400)。ただし、個人差も大きい結果となりました。成人群、高齢者群の双方で、抗体量が最も少なかった人と最も多かった人との差は約100倍も開いています。

  1. ヘルパーT細胞応答が高齢者ではゆっくり進み、収束は早い

 続いて、抗体作りの手助けをするヘルパーT細胞に着目しました。ワクチンに反応するT細胞の割合は、成人と高齢者でそれぞれ以下のように推移しています。

 この図から、ヘルパーT細胞の応答は高齢者ではゆっくり進み、成人とほぼ同じ値まで増加するものの、成人よりも早く収束することがわかります。

  1. 副反応が強い人ほど早い段階でT細胞が応答し、抗体量も多い

 2回目の接種後、接種部位の痛みは成人と高齢者に大きな差はありませんでした。38℃以上の発熱や倦怠感、頭痛など全身性の副反応は、高齢者では成人と比較して少なくなっています。

 また、年齢に関わらず2回目接種後に発熱(38℃以上)した人のほうが1回目接種後に反応するT細胞の割合が高く、さらに2回目接種後の抗体量が多い結果となっています。

 ワクチン接種後に高熱が出た人は多いでしょう。その理由は、ヘルパーT細胞が作り出すサイトカインに発熱や倦怠感をもたらすものがあるためです。辛い思いをした分、抗体が増え、強い免疫を獲得しているかもしれません。

  1. 高齢者では免疫反応にブレーキをかけるタンパク質(PD-1)を高く発現

 T細胞の働きを抑え、過剰な免疫反応を防ぐタンパク質として、PD-1が知られています。2回目接種後、高齢者のPD-1は成人よりも働く量が多い結果となりました。高齢者のなかでもPD-1の働く量が多い人では、ウイルスなどを直接攻撃するキラーT細胞の反応率が低い傾向が見られました。PD-1がたくさん働くほど、免疫反応にブレーキがかかりやすくなるのでしょう。

まとめ:高齢者はT細胞の応答がゆっくり進み収束は早い

 今回の研究では、mRNAワクチンに対するT細胞応答が年齢によってどのように異なるのかを調べました。明らかになったのは、高齢者は成人と比べて、T細胞の応答がゆっくり進み、収束は早いことです。また、全身性の副反応が強い人ほど、ヘルパーT細胞の応答が早く、抗体量やキラーT細胞の応答率増加につながりやすいと考えられます。

今回の成果でできるかもしれないこと
  • 免疫機能が低い人にも効果が高いワクチンを作る

  • 年齢(免疫の能力)ごとに最適なワクチン接種の回数や量を見つける

  • 副反応のしくみを知り、ワクチンの効果を保ちつつ副反応を抑える方法を考える

  • 免疫の力を使った、がんなどの効果的な治療法を見つける

  1. この記事を書いた人:吉野 千明
    iPS細胞研究所で実験するフリーライター・編集者。オウンドメディアやプレスリリース、インタビュー記事など、これまで執筆・編集した記事は200以上。 得意ジャンルは、企業向けメンタルヘルスとサイエンス。
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