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2024年10月15日
研究を支える仕事 Vol.1 医療応用推進室の仕事
~一日でも早くiPS細胞研究を医療応用に~
CiRAの2030年までの4つの目標の1つに、「日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備」があります。研究者が研究に専念できる環境を整えるために、数十名の事務系職員が特許出願、研究費申請支援、寄付募集、広報などの活動を行い、研究者をサポートしています。
そこで今回は、「研究を支える仕事」に焦点をあて、研究支援業務に従事している2名に仕事内容や仕事への想いについてインタビューしました。
第1回では、医療応用推進室の室長 小野寺淳史さんにお話を聞きました。

小野寺 淳史 さん
医療応用推進室の仕事内容を教えてください。
現在、11名のメンバーが在籍し、知財、研究計画支援、倫理の3つのグループがあります。知財グループでは、研究成果としての発明を早い段階で特許出願し、特許権として権利化する業務を行っています。研究計画支援グループでは、研究者が研究成果の医療応用を見据えて研究を実施できるよう、研究計画書の作成サポートを行っています。倫理グループでは、研究計画の遂行が、いわゆるELSIという医学的、倫理的、科学的、法的および社会的観点から妥当であるのかを確認するための支援業務を行っています。細胞などのヒト試料等を用いた研究計画は、研究開始前にCiRAの倫理審査委員会で審査を受け、承認を受ける必要があるのです。いずれのグループメンバーもCiRAの研究成果を早く医療応用に結び付けるために日々努力しています。
CiRAのiPS細胞研究基金には、多くの方々からご寄付をいただいています。「知的財産の確保と維持」も基金の使い道の一つですが、どのようなことに使われているのですか?
まず知財担当者の人件費、それから特許出願書類の作成や外国語への翻訳を特許事務所に委任する費用、各国の特許庁への特許出願や審査請求、その他特許権の登録に必要な手数料(印紙代)等に使わせていただいています。特許権の存続期間は特許出願から最長20年間で、その間特許権として維持するための費用も寄付金によって賄われています。
なぜ京都大学は研究成果の特許出願に力を入れているのでしょうか?
山中伸弥先生もおっしゃっていたことですが、京都大学が特許出願を行わなければ、営利企業等が特許網を固めてしまい、その特許技術を使用したい企業等に特許ライセンス(特許発明を使って良いとの許諾)を一切行わない、あるいは高額なライセンス料を請求することも考えられます。こうなってしまうと治療法開発が進みにくくなります。iPS細胞研究のように最先端の研究を一日でも早く医療応用に進めるためには、非営利機関である京都大学が特許出願を行い、誰もが研究開発を進められるように合理的な金額で特許ライセンスを行うことは非常に重要です。また、得た特許収入は、次の研究開発への資金や、研究所運営費用の一部に割り当てる等して、研究の好循環を生み出すうえで大きく貢献しています。

CiRA教員と知財担当者との意見交換
仕事をする上で心がけていることはありますか?
どのような立場の相手であっても、常に尊敬の念を忘れず、相手の立場にたって物事を考えることを心がけています。また、チャレンジ精神を忘れないようにしています。先生方の研究支援を行う上で、受身で業務を行うのでは支援サービス自体の価値を高めることは出来ません。当室組織の活性化のためにも、積極的に挑戦し続けることを心がけています。
どのようなときに仕事のやりがいを感じますか?
CiRAのような最先端の研究所で研究支援を行っていると、これまでのやり方では進められない新しい業務も多くでてきますので、当室自身がフロントランナーとして新たな試みから模索することもあります。多くの手間や責任は伴いますが、このような挑戦的な仕事は非常にやりがいがあります。新たな試みが成功した時には、iPS細胞を研究する他の機関の参考になるなど、大きな波及効果があります。このような仕事に携わることができ、とても意義深く感じています。
これからの目標を教えてください。
室長として、当室メンバーにとってより働き易い環境作りを目指していきたいと思っています。「人」は組織運営において最も重要な要素です。最高の研究支援サービスを提供するためには、当室メンバーが最高のコンディションで働きつづける必要があります。また、後進の育成にも今後更にエネルギーを注いでいきたいと思っています。いつまでも自分が担当者として先頭に立って対応するのではなく、次世代を担う人が活躍できたり、最大限のパフォーマンスを発揮出来るよう、ここ数年間は意識的に現場サポートに回っています。
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取材・執筆した人:三宅 陽子
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター