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2026年10月19日
iPS細胞20周年特集 第5回 待ち望んだ細胞と歩んだ20年
iPS細胞誕生20周年を記念し、iPS細胞研究の発展を支えてきた6人に、これまでの20年と次の20年の展望を聞く本特集。全6回の第5回は、髙橋淳 教授です。
髙橋 淳 教授
髙橋 淳 教授
私にとって、iPS細胞は、まさに待ち望んでいた細胞でした。それまでは、パーキンソン病注1)注1)パーキンソン病
50歳以上の年齢層で多く発症する進行性の病気で、主な症状は、体の震え、筋肉のこわばり、動作が遅くなるなど。を再生医療で治したいという思いから、ES細胞注2)注2)ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のことで、マウスでは受精後3~5日目の胚盤胞から将来からだになる部分に成長する運命をもった細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。を用いた研究を続けていました。しかし、ES細胞には倫理的な制約があることに加え、受精卵から作るため自家移植はできません。私自身、自家移植注3)注3)自家移植
ある個体由来の細胞や組織を、同一個体の体内に移植すること。を実現したいと考えていました。そこにiPS細胞が登場し、「これだ」と確信しました。
もちろん、この20年間が順風満帆だったわけではありません。計画が思うように進まなかったこともありましたし、研究開発の方向性を大きく見直すこともありました。しかし、そのたびに新たな協力者との出会いがあり、結果としてより良い道へ進むことができました。今振り返ると、困難だった出来事も、その後の発展につながる大切な転機だったと思います。
この20年間を通じて強く実感したのは、研究は決して一人では進められないということです。私はよく、「正しい山頂を目指して山を登っていれば、必ず誰かと出会う」と話します。パーキンソン病に対する細胞治療という山頂を目指して歩み続けると、それぞれ異なる専門性を持つ人たちが自然と集まり、ともに頂上を目指す仲間になっていきました。iPS細胞研究の20年は、多くの人との出会いに支えられた20年でもありました。
今年、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療製品が条件及び期限付き承認を受けました。大きな節目ではありますが、ここからが本当のスタートです。本承認を目指し、より安全で有効な治療へ改良を続けていかなければなりません。私は、治療法の開発にはゴールはないと考えています。患者さんとともに治療を育て、改善し続けていくものです。だからこそ、患者さんにも「治療を受ける人」ではなく、「一緒に治療をつくる仲間」であってほしいと思っています。
次の20年で期待しているのは、iPS細胞を使った治療が特別なものではなく、ごく当たり前の医療になることです。患者さん自身の細胞からiPS細胞を作り、目的の細胞へと育て、その患者さん自身に移植する―そんな自家移植の未来は決して夢ではないと思っています。iPS細胞が切り開いた20年の歩みを礎に、これからも仲間や患者さんとともに、新しい医療を築いていきます。
注1)パーキンソン病
50歳以上の年齢層で多く発症する進行性の病気で、主な症状は、体の震え、筋肉のこわばり、動作が遅くなるなど。
注2)ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のことで、マウスでは受精後3~5日目の胚盤胞から将来からだになる部分に成長する運命をもった細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。
注3)自家移植
ある個体由来の細胞や組織を、同一個体の体内に移植すること。
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取材・執筆した人:三宅 陽子
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター
