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2023年2月10日

第32回CiRAカフェ「ズレも積もれば発見となる~コンピュータと見つける生物システムの謎~」を開催しました

 2023年1月28日(土)14時より、第32回CiRAカフェ「ズレも積もれば発見となる~コンピュータと見つける生物システムの謎~」を開催しました。約4年ぶりに会場に一般の方を迎えてのハイブリッド開催で、前日の雪が残る中、25名の方に来所いただきました。オンライン(YouTube Live)では67名の方に参加いただき、当日の事後視聴を含めると217名の方にご覧いただきました。

 今回のCiRAカフェでは、北海道大学Co-STEPから招聘した奥本素子准教授に聞き手になっていただき、CiRAの河口理紗講師未来生命科学開拓部門)が取り組んでいる計算生物学の手法を用いた、「細胞の運命のゆらぎ(ズレ)」の解明について、様々な研究例を挙げながら、二人の対話形式でお話しました。また、奥本准教授は、このイベントの企画や準備にも中心的な役割を担ってくださいました。

聞き手の奥本准教授(左)と話し手の河口講師(右)

 カフェの本題に入る前に、河口講師が遺伝情報は私たちの体の中でどのように作られていくかということを説明しました。生物学では古くからセントラルドグマ(遺伝情報が「ゲノム→RNA→タンパク質」の順に伝達されること)を基本原理としていろいろな研究が進められてきました。最近の研究では、タンパク質が様々な方法でゲノムの制御にも関っていることが分かってきたことを紹介し、コンピュータでゲノム、RNA、タンパク質などの細胞内の分子を大規模に解析する「バイオインフォマティクス」を活用し、細胞で起こる現象をより詳細に調べることの重要性について話しました。

 そして、本題に入り、奥本准教授が質問し、河口講師がそれに答えるという形式で、これまでに取り組んできた研究を紹介しました。

 まず、医療のビッグデータを用いたがんの診断においても、コンピュータによる解析が役立つことについて説明しました。例えば、脳のがんの診断ではMRI検査が用いられます。この画像を使って、がんの進行度や腫瘍の遺伝子変異などを予測するのが、ラジオゲノミクスという研究です。しかし、病院や医師によってMRIの設定の違いなどもあり、画像に差(ズレ)が出てくるため、病院横断的な研究は難しかったそうです。そこで、医師や病院ごとのMRI画像の違いによらずがんの進行度を予測できるよう、コンピュータを活用してズレを補正していく研究について話しました。

 次に、細胞の初期の発達段階でたまたま起こる小さなズレが、最終的に個体レベルでの大きなズレになる現象について紹介しました。例えば、女性はX染色体を2本持っていますが、その2本のうち1本は働かせない仕組み(X染色体の不活性化)を持っています。ただ、X染色体の不活性化は発生段階のどの時点で起こるのか、どのような因子がそれに関わっているのか、そのメカニズムは完全には明らかになっていません。そして、このようなランダムな染色体の不活性化は、体を形成する際にゲノムによらない大きなズレを生み出す可能性があります。

 そこで、このようなズレを調べるために行われた、アルマジロを使った研究を紹介しました。ココノオビアルマジロは、必ず一卵性の四つ子を産むことが知られています。元々同じゲノム配列を持つと考えられる四つ子のアルマジロからどのような個人差が生まれてくるかを、実験室の同じ生育環境下で調べることにしました。すると、アルマジロのX染色体上の遺伝子発現量から、4個体それぞれの間でランダムなX染色体の不活性化の小さなズレが測定できるレベルで起こっていることが分かりました。

 このような遺伝子発現の小さなズレが病気に関わる変異遺伝子で起きた場合、病気の発生や重篤化をランダムに引き起こす可能性があります。これまで病気の原因は、主に遺伝子の変異と環境要因の組み合わせが注目されてきましたが、遺伝子発現のズレによっても引き起こされる場合があることを説明しました。実際にコンピュータを使ったシミュレーションにより、「遺伝子発現量のズレやすさ」と「ズレによる病気のおこりやすさ」を組み合わせて「病気になりやすさ」をモデルから予測することができる可能性を示しました。

 河口講師は、今後はiPS細胞をツールとして、計算生物学の手法を用いて遺伝子発現のズレを調べ、疾患のメカニズムに迫りたいと目標を述べました。

休憩時間に参加者から寄せられた質問に目を通す奥本准教授(左)と河口講師(右)

 二人のトークの後、CiRA講堂で参加した方々に配布した付箋に質問を書いていただきました。また、YouTube Liveで視聴した方にはチャットや質問フォームで質問や感想を募りました。

 参加者からは、「小さなズレが大きくなると、なぜ病気になりやすくなるのですか?」「この研究によって世の中にどのようなシステムや製品を生み出し、社会はどう変わればいいと思っていますか?」「老化でもバイオインフォマティクスの技術は使われていますか?」「計算生物学はどのような分野から勉強をはじめたらいいですか?」などの質問をいただきました。多数のご質問をいただき誠にありがとうございました。時間の関係ですべてにお答えできなかったことを、この場をお借りしてお詫び申し上げます。

話に耳に傾ける会場の参加者

 北海道大学Co-STEPにご協力いただき、奥本准教授に企画から携わっていただいたおかげで、かなり難しい研究内容をおもしろく分かりやすく紹介することができ、参加者の方に「お二人で話している形式に助けられ、内容をきちんと理解することができた」「聴きやすい二人の会話で雰囲気も良かった」などの感想をいただきました。また、「全く知らなかった生物情報学に触れることができた」「生物学×情報処理がどのように研究に活かされているのかがよく分かった」などのコメントもいただきました。いつもとは一味違った対話形式のCiRAカフェになったことで、CiRAの研究を少しでも身近に感じていただけたのではないかと思います。

 今回のCiRAカフェの内容は、CiRAのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。

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