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2023年11月1日

オンラインメディア勉強会を開催しました

 7月12日(水)14時からオンラインでCiRAメディア勉強会を開催しました。今回は、「iPS細胞で腎臓の再生に挑む:研究と臨床の現在と展望」と題して、増殖分化機構研究部門長船健二教授が説明を行いました。テレビ局や新聞社などから12名にご参加いただきました。本記事では長船教授による勉強会の内容をご紹介します。

 長船教授は、週に1日、京都大学医学部附属病院で腎臓内科の医師として診療を行いながら、研究を継続しています。腎臓だけでなく、腎臓の病気に深く関連する膵臓と肝臓を加えた3つの臓器の病気について新たな治療法を開発することを目指し、iPS細胞をさまざまなアプローチで活用した研究を行っています。

 メディア勉強会では、長船研究室が、腎臓、膵臓、肝臓の3つの臓器を対象に、iPS細胞を用いた細胞療法や臓器の再生、疾患モデル作製および治療薬の探索などの研究に取り組んでいることについて紹介するところから始めました。

長船研究室の研究概要

 これらの臓器では、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全、糖尿病、肝硬変など、それぞれ数多くの患者さんが罹患する病気が存在します。いずれも完全に治療するためには、現在は臓器移植が必要であり、ドナーが不足していることから、iPS細胞を用いた治療法の開発が期待されています。

 今回は、なかでも「腎臓の再生」にフォーカスをあて、研究の状況について説明しました。長船教授の研究室では、腎臓について、治療薬の探索や、細胞療法および臓器移植に向けた研究を行っていますが、再生医療つまり移植による治療の対象として考えているのは、慢性腎臓病(CKD)とそれが進行した末期腎不全です。

 CKDは、国内に1,300万人以上の患者さんがいるといわれています。また、透析療法を必要とする患者さんが34万人もおり、毎年、4万人の患者さんが新規に透析療法を開始しています。一方、腎移植は年間2,000例ほどで、大多数の患者さんが透析をしながら生活をしています。この解決策の一つとして、腎臓の再生医療の開発が期待されているのです。

 では、腎臓の再生のための研究はどこまで進んでいるのでしょうか。現在、腎臓の再生には、細胞移植と臓器移植の大きく2つの方法が考えられています。

 腎臓は20種類以上の細胞から構成されるほか、血液を濾過する糸球体や、栄養素や水分などを再吸収し、体液を一定に保つ尿細管など複雑な構造により成立しています。さらに、腎臓は最終的に血管など他の組織とつながることでその機能を果たすことから、作製することが非常に困難な臓器として知られています。

 長船教授によると、細胞移植は、こうした複雑な臓器を作る必要がなく、早期の応用が期待されます。これまでに国内外で、間葉系幹細胞を用いた腎疾患に対する臨床試験が複数実施されていますが、残念ながら有効性を示した例は今のところはないそうです。

 一方、臓器として腎臓を作製し移植するアプローチでは、iPS細胞を培養して、ヒトと同等のサイズの臓器を作製することが困難であることから、ブタの体内でヒトiPS細胞由来の腎臓をつくらせる研究などが行われています。

研究の状況について説明する長船教授

 長船教授の研究室は、腎臓の再生のため、糸球体と尿細管などからなる腎機能の単位である「ネフロン」の形成をiPS細胞から行う研究に取り組み、ネフロン前駆細胞を分化誘導し、さらにネフロンの構造を再現したネフロンオルガノイドという直径2〜3ミリほどの立体的な細胞集合体を作製する方法を開発したことを2020年に報告しています(CiRAニュース 2020年4月8日)。

 また、複数の尿細管が連結する集合管のもとになる組織である尿管芽をiPS細胞から作製する方法の開発にも取り組んでおり、現在は大量に培養する手法も確立しています(CiRAニュース 2020年7月29日)。

 長船教授は、ネフロン前駆細胞を腎臓に移植することで、透析導入を開始するまでの期間を延ばす治療法開発を目指す考えを示し、これまでに確立した分化誘導の技術を臨床応用へとつなげるための研究について進捗を語りました。

 また、臓器の再生についても、これまですでに、糸球体、尿細管、集合管が連結したヒト腎組織の作製には成功しており、今後はさらにこの技術を発展させていくとともに、さらに、移植用腎臓の作製にも試みていくと続けました。

 参加した記者からは、腎臓病の治療薬開発における課題や、細胞移植と臓器再生それぞれの詳細について質問があり、長船教授が国内外の研究開発の状況も紹介しつつ、今後の研究計画などを回答しました。

 今回の勉強会では、腎臓の再生研究を中心に紹介しましたが、長船研究室では、膵臓、肝臓でも研究を進めるほか、腎臓病の患者さんから作ったiPS細胞を用いた創薬研究などを実施しています。今後の研究成果にも注目していただけますと幸いです。

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