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2026年9月24日
開催報告:学校教職員向け講座「iPS細胞研究所で科学と倫理を考える」
2026年6月30日、「最先端科学から学ぶ講座:iPS細胞研究所で科学と倫理を考える」を開催しました。本講座は、毎年、京都府総合教育センターが京都大学と共同で実施しているもので、今年はiPS細胞研究所(CiRA)と連携しました。当日は府内の小学校から高校までの教職員約30名が参加しました。
本講座は1日を通したプログラムであり、午前は、三澤和樹サイエンスコミュニケーター(国際広報室)によるiPS細胞やCiRAの施設に関する基本的な紹介、午後は上廣倫理研究部門の三成寿作准教授と藤田みさお教授による生命倫理に関する話題提供という構成で進行しました。また午後の二人の教員による話題提供の間には、参加者が主体的に取り組むワークショップ(下記「コラム」欄参照)を行いました。
午前:iPS細胞の基礎を学び、最先端のオープンラボを見学
三澤サイエンスコミュニケーターからは、無限に増殖しさまざまな細胞に変化できるiPS細胞の性質を利用し、再生医療や創薬の研究が進められていることを説明しました。また、iPS細胞を用いた医療応用の研究開発について、CiRAの研究成果を例に最新の動向などを解説しました。その後、国際広報室スタッフの案内のもと、参加者は研究所内を見学しました。参加者からは、iPS細胞が再生医療だけでなく、病気の原因究明や治療薬の開発(創薬)に使われていることや、研究者同士の交流を促すために壁をなくした「オープンラボ」の開放的な設計などが印象に残ったという感想が多く寄せられました。
三澤サイエンスコミュニケーターによる説明の様子
午後:話題提供1「分岐の前の学術」
三成准教授からは、「分岐の前の学術」と題した話題提供がありました。特に、生命倫理という学術的な営みは極めて学際的であり、その探究には、学術が現在のように文系や理系、さらには各専門分野に分岐する前の状態にも目を向ける必要があるのではないかと提案しました。このような観点から、2026年6月21日に開催された亀山トリエンナーレのプレ企画「科学とアートがであう時」の様子にも触れながら、科学と生命倫理、アートが互いに関わり合う可能性について紹介しました。そして、iPS細胞の将来的な取り扱いを含め、生命倫理に関する論点について多様な人々とともに考えていくためには、専門的な知識をわかりやすく共有・伝達するだけでなく、一人ひとりがさまざまな事柄に対する探究心や好奇心、そして想像力を育む機会を広げていくことが重要ではないかと述べました。最後には、文系・理系を含め、異なる背景を有する専門家と連携して出版した書籍『ゲノムと社会』の紹介を通じて、「ゲノム」という一つの概念でも多角的に捉えられることを示しました。
寄せられた感想からは、全く共通点がないと思われる領域でも「人」が介在することで接続できることへの興味や、同じ事物や事象であっても視点を変えることで関わる学術分野が違ってくることへの気づきなどがうかがえました。
三成准教授による話題提供の様子
午後:話題提供2「iPS細胞研究の倫理を考える」
藤田教授からは、iPS細胞研究を進める上で向き合うべき倫理的課題について話題提供がありました。最初に、iPS細胞の発見以前から、受精胚に由来するES細胞をめぐって倫理的課題が存在していたことを紹介しました。受精胚は、日本において「人の生命の萌芽」と位置付けられており、その取扱いには、従来、生命倫理の観点から慎重な配慮が求められてきたという経緯についても説明がありました。その後、iPS細胞の発見を契機に、国内外を問わず、研究が目覚ましく進展するなか、新たな倫理的課題が生じていることに言及しました。具体的には、iPS細胞から精子や卵子(生殖細胞)を作る技術や、ヒト胚モデル研究などを例に挙げ、新たな研究をどこまで、どのような理由で認めるべきか、またどのようなルールが必要かについて、参加者とともに議論しました。
参加者からは、最先端技術への期待だけでなく、その背後にある倫理的な課題や社会的影響にも目を向けることの大切さを実感したという声がありました。また、科学技術の進歩と倫理は対立するものではなく、社会全体で議論し、ルールをつくりながら、ともに歩んでいくものであるという考えが印象に残ったとの感想も寄せられました。
藤田教授による話題提供の様子
一日を振り返って
CiRAでは、iPS細胞の研究開発を進めるだけでなく、このような研究や技術が将来的に社会に与える影響についても早い段階から検討していくため、上廣倫理研究部門を研究所内の主要部門の一つに位置づけています。科学技術が日々進歩するなかで、社会にもたらす恩恵と、そこから生じ得る倫理的な問いの双方について探究していくことは、これからの教育の現場においても大切な視点になるのではないでしょうか。教職員の皆様にとって、本講座が最先端の科学知識に触れ、科学と社会との関わりについて理解を深める機会となり、ひいては未来を担う子どもたちへの学びにつながりましたら幸いです。
「分岐の前の学術」ワークショップの開催
三成寿作准教授の話題提供の後に、三成研究室で企画した「分岐の前の学術」に関するワークショップを開催しました。このワークショップは、理系や文系、芸術系といった枠組みを超えた対話を促すことを目的として実施しました。なお、ファシリテーターは、黒田雅子特定職員(三成研究室)と鈴木美香講師(大阪大学研究オフィス)、三宅陽子サイエンスコミュニケーター(国際広報室)の3名が務めました。
最初に、黒田さんと鈴木さんから、昨年、木津川市情報発信基地キチキチで実施した参加型ワークショップ「てん・テン・点−感じる動画プロジェクト−特別ワークショップ」の紹介がありました。この取り組みは、アート作品や動画を活用し、「見て、聴いて、話して、じっくり考える」機会をつくりたいという提案から始まったものです。続いて、この企画で使用した動画作品を、本ワークショップの導入として、参加者に紹介しました。
ワークショップ(導入)の様子
(左:黒田さん、右:森めぐみさん)
ワークショップ(導入)の様子
(上:黒田さん、下:森めぐみさん)
動画作品「止まることも進むこと(Orientation: Is the path always the same?)」
のイメージ
(左→右に進行)
(上→下に進行)
この導入では、以前、三成研究室のインターンシップに参加したことがあり、その動画作品にピアノ曲を添えた森めぐみさん(東京藝術大学大学院美術研究科 博士後期課程2年)を特別ゲストとして招き、改めて動画作品についての所感を尋ねました。森さんは、黒い点の動きから五線譜上の音符やその時間的展開を想起したことが今でも強く印象に残っているそうです。さらに、鑑賞のあり方についても、楽器や身体を通じた表現を含め、さまざまな方法があることに触れました。一方、三宅陽子サイエンスコミュニケーター(国際広報室)は、「重力に従うと、黒い丸は下に落ちていくはずなのに、どうして上っていくんだろう」と、黒い丸の正体がとても気になったそうです。このように、同じ作品でも、着目する点や捉え方は人によって異なることを確認し、実際のワークへと進みました。
ワークショップ(メインワーク)の様子
今回は、三成先生との共同研究を通じて、アーティストの鈴木康広さん(武蔵野美術大学 教授)が新たに制作した「りんごの分身」を用いました。参加者は5、6名のグループに分かれ、まず一人ひとりが作品と向き合いました。グループ内でそれぞれの所感を共有し、対話を重ねながら、気づきや考えを深めました。最終的に、グループごとに話し合った内容を全体に共有しました。こうしたワークにより、「唯一の正解」を探すのではなく、「事実の確認や理解」を超えて、互いの違いを受け止めながら対話を重ねることで、アート作品を題材に自由に感じ、発想することの大切さについて理解を深めました。また参加者のなかには、自分の発想や解釈が自身の教えている教科の影響を強く受けていることに気づくなど、自身のものの見方を振り返るきっかけにもなりました。
【参加者からの感想(一部紹介)】
-「人間でもリンゴでも倫理的に考えれば同じ生命体である」
-「生徒に正しいことばかりを求めがちになってしまう」
-「我々は自分のものさしをもって世界をみている。そして、その見方とものさしは人によって違う」
-「それぞれの持っている経験や知識をもって語り合うことの面白さ」
-「わからないことを認められない風潮だからこそ、今このワークショップの意味があるとの説明にすごく納得した」
-「身の回りに存在する物を様々な大きさ、形での読み取りの枠をつくって物を見る。枠をつけることで物事を捉えやすくなる。一方で、周囲との相互関係がみえてこなくなってしまう。他との関わりを知り考える枠をはずすための機会が授業でも必要と感じた」
