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2023年12月15日
Will Powerで拓く免疫と胸腺の未来

米谷耕平 助教(左)とプレテマー・ヤン 研究員(右)
米谷助教がCiRAに着任した当初、濵﨑研ではiPS細胞を使用して研究を行っていなかったため、手探り状態でのスタートだったと言います。しかし、「いろんなことを学べるので、新しいものを扱ってみたい」と、不安や心配はなく、新しいことに取り組めるという好奇心が意欲に繋がっていったそうです。「もっとうまくやれたと思う部分はあるけど、試行錯誤の過程も楽しめました」と米谷助教は振り返りました。

ルクセンブルク出身のヤンさんは、2012年に山中伸弥教授のノーベル生理学・医学賞受賞のニュースを見て以来、iPS細胞に心を奪われ、日本に来たそうです。「自分自身のためよりも他人のために貢献するという熱心な姿勢に憧れました」と語ります。意外なことに、ヤンさんの心を惹きつけたのは日本人の研究への姿勢でもあったのです。

濵﨑研に入った理由として、二人とも濵﨑教授の人柄をあげました。引き込まれるような熱心さがあり、インスピレーションが湧き上がるように丁寧にディスカッションが行われるので、より研究にのめり込んでいくのだそうです。
ヤンさんは米谷助教について、「どんな時も穏やかで平常心。話しやすく親身にディスカッションしてくれて、Will Powerに溢れている」と話し、米谷助教はヤンさんについて、「パッションとアクティブさがありながら、緻密さも併せ持っている」と言います。2人の信頼関係と、濵﨑研究室のエッセンスが感じられました。
米谷助教は中学校の理科の授業でNHKのテレビ番組「驚異の小宇宙 人体」を見たことが科学者になるきっかけでした。研究にどっぷり浸かる今の生活は心地よく、肌に合っているそうです。
ヤンさんは幼い頃から科学に興味があり、独学で遺伝学の勉強をしていたそうです。「なぜ花は咲くの?なぜ宇宙はあるの?『Why、なぜ?』にいつも目を輝かせている子供でした。その『Why』を少しでも知るために科学者になりました」と笑顔まじりに語ってくれました。
胸腺の退縮を研究している米谷助教とiPS細胞からの胸腺再生を研究しているヤンさんは、どちらも胸腺が人間の生命を支える免疫の柱であることを強調します。胸腺は人間の免疫を担うT細胞が分化、成熟する場所(臓器)で、加齢に伴って退縮し免疫老化につながります。
「胸腺はiPS細胞を用いて研究するメリットが大きい」とヤンさんは語ります。胸腺ができあがってから退縮していくまでをリアルタイムで観察しながら研究ができるというiPS細胞ならではの強みを活かして、臨床応用までつなげていきたい、と目標を教えてくれました。先天的に胸腺のないディジョージ症候群や老化に伴う免疫不全、がん化学療法の副作用など応用の範囲は多岐にわたります。一生続けても惜しくないほど胸腺に魅せられているそうです。
最後に2人に今後の夢と目標を伺いました。
「臨床では多くの患者さんを助けられるような治療法を確立したい。基礎的な部分では教科書に載るような大事な事柄を見つけられたら嬉しい」と米谷助教。「これからずっと胸腺の研究をしてもいいくらい、今のテーマが大好き。iPS細胞から作った細胞で再生医療を実現するという大きな夢の一部に貢献できたら」とヤンさん。さらに「少しでも人類の進歩に貢献できたら」と続けました。

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取材・執筆した人:鈴木 太朗
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 金子研究室 大学院生