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2026年10月13日
iPS細胞20周年特集 第1回 予想を超えて広がったiPS細胞の20年
2006年に世界で初めてマウスiPS細胞の作製が報告されてから20年。小さな研究室から生まれたiPS細胞は、多くの研究者や企業、支援者、そして患者さんとともに歩み、再生医療や創薬などさまざまな分野へと広がってきました。iPS細胞研究はこの20年間でどのように進展し、これからどのような可能性を拓いていくのでしょうか。iPS細胞誕生20周年を記念する本特集では、iPS細胞を世界で初めて作製した山中伸弥教授、高橋和利准教授をはじめとするiPS細胞研究の発展を支えてきた6人に、これまでの20年と次の20年の展望を聞きました。
全6回の第1回は、CiRAの高橋和利 准教授です。
高橋 和利 准教授
世界で初めてマウスのiPS細胞の論文を発表した当時、ここまで研究が発展するとはまったく想像していませんでした。あの頃の私にとっては、インパクトのある研究成果を発表することが大きな目標で、iPS細胞がここまで多くの研究者に使われて、色々な使い方がある技術になるとは考えていませんでした。
この20年を振り返って最も印象深いのは、研究を取り巻く環境が一変したことです。iPS細胞発表当時、山中研究室はまだ小さな研究室でしたし、私たちの興味であった「多能性幹細胞注1)注1)多能性幹細胞
ES細胞(胚性多能性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった、多能性を有する細胞の総称。」や「リプログラミング注2)注2)リプログラミング
体細胞が多能性幹細胞に変わること。」は、限られた人だけが興味を持っているマニアックなテーマだと思っていました。それが論文発表後には、新聞やテレビ、書籍など、あらゆるところでiPS細胞という言葉を目にするようになりました。自分たちが取り組んできた研究が社会の大きな話題になっていることを、不思議な気持ちで見ていました。
iPS細胞研究の発展という点でも、多くのことが予想を超えていました。DNAなどの塩基配列を高速に大量に解析する次世代シーケンサーやゲノム編集技術注3)注3)ゲノム編集技術
人工的にデザインしたDNA切断酵素などを細胞に導入し、ゲノムの局所を選択的に切断、改変する技術。が普及し、iPS細胞と組み合わせた新しい研究が次々に生まれました。特に驚いたのはオルガノイド(ミニ臓器)技術です。培養皿の中でiPS細胞から作製した細胞が自ら組織化し、臓器に近い構造がつくられるとは、20年前には想像もできませんでした。基礎研究においても、リプログラミングの仕組みを解析するという新しい研究分野が築かれるという、大きな変化がありました。
そのような中で、iPS細胞研究が最も大きく変わったと感じる転換点は、再生医療用iPS細胞の培養法が飛躍的に進んだことです。CiRA沖田圭介特命准教授によって、iPS細胞が抱えていた安全性に関する懸念点が解消されていきました。また、CiRA中川誠人講師が動物由来成分に依存せず、誰もが扱いやすい培養法を確立されたことで、iPS細胞は大きく臨床へと近づきました。iPS細胞の実用化を目指したお二人の努力を間近で見ることができたのは、とても幸運だったと思います。
現在、私は「iPS細胞がなぜ体中のあらゆる細胞になれる特別な能力を持つのか」という根本的な問いに向き合っています。その答えを探るため、私たちはRNAからタンパク質が作られる翻訳という過程に着目し、iPS細胞の本質を理解しようとしています。
これからのiPS細胞技術に期待していることは、PCR注4)注4)PCR
DNAの特定の部分を増やし、調べやすくする技術。やシークエンス技術注5)注5)シークエンス技術
DNAなどの遺伝情報を構成する塩基の並びを読み取る技術。のように、生物学を支える基盤技術として、これからも改良され続け、より多くの研究者が当たり前に使う技術になってほしいということです。そして、iPS細胞技術が新しい技術を生み出す土台となり、次の時代のブレイクスルーにつながることを期待しています。
注1)多能性幹細胞
ES細胞(胚性多能性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった、多能性を有する細胞の総称。
注2)リプログラミング
体細胞が多能性幹細胞に変わること。
注3)ゲノム編集技術
人工的にデザインしたDNA切断酵素などを細胞に導入し、ゲノムの局所を選択的に切断、改変する技術。
注4)PCR
DNAの特定の部分を増やし、調べやすくする技術。
注5)シークエンス技術
DNAなどの遺伝情報を構成する塩基の並びを読み取る技術。
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取材・執筆した人:三宅 陽子
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 国際広報室 サイエンスコミュニケーター
