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2024年10月17日
第37回CiRAカフェ「分化:からだの細胞ができるまで―血液・免疫の研究者の視点―」を開催しました
2024年6月22日(土)、第37回CiRAカフェ「分化:からだの細胞ができるまで―血液・免疫の研究者の視点―」を開催しました。今回は、京都市内の四条烏丸にあるオープンイノベーションカフェ「KOIN(Kyoto Open Innovation Network)」で開催し、小中高生から高齢の方まで39名の方にご参加いただきました。

CiRAカフェの様子
今回のCiRAカフェでは、臨床応用研究部門の齋藤潤教授が細胞の「分化」について基礎から解説し、後半ではこれまでに行った血液細胞の研究を紹介しました。齋藤教授の研究室では、難病の患者さんの細胞からiPS細胞を作って、病気の原因を調べたり、治療法を探したり、さまざまな研究を行なっています。
この記事では、当日のお話の内容を簡単にご紹介します。
分化とは、生物学の用語で、特殊化していない細胞がより特殊化したタイプの細胞に変化する過程のことを指します。私たちの体をつくる細胞にはさまざまな種類があります。これらの細胞は、受精卵という1種類の細胞が分裂を繰り返し、徐々に細胞の種類が増えていくなかで、細胞が特殊化していく分化のしくみにより生み出されます。

分化のイメージ
細胞が分裂しながら分化していき、最終的には多種多様な数十兆個の細胞からなる体が作られます。細胞一つをお米の一粒に例えると、人間の体は京都駅ビルくらいの大きさになるという齋藤教授の説明に、参加者もイメージを膨らませていました。
続けて、齋藤教授のグループが特に研究の対象としている血液系の細胞を例に、体の細胞がいかに多種多様であるかを紹介しました。血液の細胞は「T細胞」や「マクロファージ」などのいろいろな細胞がありますが、研究では、さらに細かい分類で区別しています。
こうした、さまざまな細胞になるしくみとはどのようなものでしょうか。その一つが、細胞の核の中にある遺伝子の働きです。ヒトが持つ遺伝子は約2万個ありますが、そのなかには、細胞が生きていくために必要な基本的な遺伝子や、限られた細胞がもつ特殊な機能を実現にするための遺伝子などがあります。細胞はこうした遺伝子のうち必要な遺伝子のスイッチをONにして、不要なものはOFFにします。この組み合わせの違いが、細胞の種類の違いにつながります。

iPS細胞研究の流れ
研究に利用したい細胞をiPS細胞からつくる方法がわからないときは、まず、実際の体の細胞でどんな遺伝子がONになっているか、その細胞の一つ前の段階の細胞とどこが違うかなどを調べて、分化のしくみを解き明かします。その後、実際に、同じような分化の過程をまねるような方法を、これまでの研究を参考にして試行錯誤します。
齋藤教授は、iPS細胞を分化させるときに、①発生を追うように真似する方法、②目的の細胞ではたらく遺伝子を直接操作することによりiPS細胞から一気に分化させる方法、③複数の細胞を混ぜ合わせて細胞どうしの相互作用を利用する方法の大きく3つの方法があることを紹介しました。それぞれ、その後の研究の用途などによって長所・短所があり使い分けているそうです。

iPS細胞から分化させる方法を説明する齋藤潤教授(左)と
モデレーターの三澤サイエンスコミュニケーター
からだの中で血液細胞を作り出す幹細胞ができるときに、どのような遺伝子の制御が起きていて、それを引き起こしているものは何なのかという問いには、まだわからないことがたくさんあるそうです。CiRAカフェの後半は、この問いに取り組んできた齋藤教授の研究室の研究成果を紹介しました。
ヒトの発生では、血管内皮細胞から血液細胞への分化がみられますが、齋藤研究室ではこれをiPS細胞を使って再現した成果を2019年に報告し、イベントでは、実際に細胞が変化していく様子を動画を用いて紹介ました。研究室では、さらにiPS細胞から作った血管内皮細胞から血液細胞への分化でどのような遺伝子の変化が起きているかを調べ、分化を制御する2つの遺伝子を特定し2023年に報告しています(CiRAニュース2023年9月29日)。齋藤教授は、このように分化の仕組みを深く知ることで、iPS細胞を分化させる技術を開発することができ、iPS細胞を分化させる技術から、体の中の分化の仕組みをさらに詳しく調べることもできると説明しました。

細胞の分化について説明する齋藤潤教授
最後に、私たちの体をつくる「分化」というプログラムは非常に複雑かつ厳密に制御されており、その結果として、私たちの体が形づくられていることや、細胞生物学で分化を調べることの重要さを参加者に伝えていました。
今回のテーマは少し難しかったところもあり、参加者からは分化や遺伝子の制御についてたくさんの質問をいただきましたが、質疑応答のなかで参加者の方が新たな発見や納得をされている様子が伺えました。終了後のアンケートでは「普段聞けない研究内容で楽しかった」「研究の地道な作業がわかって面白かった」などの感想をいただき、多くの方に楽しんでいただくことができたように思います。
CiRAではiPS細胞を用いた医療の応用を目指し研究を進めていますが、今回CiRAカフェでは、どちらかというと応用のためのスタート地点となる基礎研究に焦点をあてました。研究者が追求している細胞生物学やiPS細胞研究に興味をもっていただくきっかけとなれば幸いです。