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2022年6月2日
Altos Labsとの受託研究契約締結について
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、このたび、米国のAltos Labs, Inc.(Altos)と受託研究契約を締結し、iPS細胞関連技術を用いた老化研究プロジェクトを開始することになりましたのでお知らせいたします。
Altos社は、細胞の機能の正常さや強さを修復することにより、病気、怪我、生涯を通して生じる細胞の機能障害を克服することを目標とするライフサイエンス企業です。CiRAの山中伸弥教授・名誉所長は、同社の無報酬の上級科学アドバイザーを務めています。
この研究プロジェクトは、iPS細胞技術等を用いて、細胞や臓器の老化プロセスを解明し、病気の予防や治療法の開発に貢献することを目的としています。
山中教授が研究全体を統括し、ウォルツェン・クヌート准教授、吉田善紀准教授、高橋和利准教授、豊田太郎講師が主任研究者としてそれぞれ研究プロジェクトを主宰します。
ウォルツェン准教授は、精密なエピジェネティック・リプログラミング(注1)を用いた細胞老化の操作手法を研究します。マルチオミクス解析(注2)を用いて、胸腺(注3)の細胞や胎盤の細胞が急激に老化するプロセスでおこる固有のエピジェネティックな変化を研究します。この研究は、組織の機能改善、効率的な自己治癒、安全な再生医療応用を可能にする初期化システムの開発に貢献することが期待されます。
吉田准教授は、ヒトiPS細胞を用いた心臓の若返りを目指し、老化の特徴について研究します。心臓の組織を健康に若返らせることによって、心臓組織が生理的に機能し、その健康な状態が維持されることを目的としています。研究チームは、心臓の若返りの主要因を同定し、実証する計画です。
高橋准教授は、特定の因子を用いてヒト線維芽細胞(注4)の若返りを誘導する研究を実施します。体細胞が初期化され多能性を獲得するプロセスでおこる若返り現象を実証し解析します。幼若細胞と加齢細胞を比較する代わりに、新しいマルチオミクス解析手法(注2)を用いて、正常な体細胞と若返らせた細胞を比較します。
豊田講師は、ヒト多能性幹細胞由来の膵島(注5)細胞を使って、細胞老化モデルと細胞選択的な若返りを研究します。このプロジェクトでは、細胞を部分的に初期化するツールを改良し、発がん性などのリスクを減少させた上で、細胞を若返らせることを目指します。
この老化研究プロジェクトは、Altos社からCiRAが受託しており、受託研究契約期間は、2022年5月1日から5年間です。CiRAはAltos社から提供された研究資金を活用し、本プロジェクトに必要な研究機器の購入や人材の雇用等を行います。
山中伸弥教授のコメント
「細胞を部分的にリプログラミングして、細胞を若返らせる研究が世界で行われています。このたびAltos社から研究資金を提供していただき、CiRAでも研究を開始し、細胞の若返りを実証し、その仕組みを解明したいと考えています。このような研究プロジェクトを通して、細胞が老化するメカニズムを理解し、新たな病気の治療法開発に貢献してまいります。」
Altos社については、同社のウェブサイト(英語)をご参照ください。
注1)エピジェネティック・リプログラミング
生殖細胞ができる時や、受精後に起こる、細胞にある遺伝子全体(ゲノム)レベルでの初期化のこと。iPS細胞の作製過程で一部誘導される。
注2)マルチオミクス解析
細胞内のDNA、RNA、タンパク質などを総合的・網羅的に解析する手法。この解析によって、生体内の物質間の関係性を分析することで、病気の指標を発見することができる。
注3)胸腺
がんやウイルスと戦う免疫細胞の1つである「T細胞」を、正常に働くように教育する役割をもつ臓器。思春期に最も大きくなり、その後は次第に萎縮していく。
注4)線維芽細胞
結合組織を構成する最も主要な細胞。多くの臓器に存在する。何らかの損傷により組織に傷が生じると、この細胞が増殖し修復する。世界で初めてiPS細胞が作製された際に使われた細胞。
注5)膵島
膵臓には、様々な消化酵素を含む膵液を作り、腸に送り出す外分泌細胞と、糖代謝を調節するホルモンを血中に放出する内分泌細胞がある。膵島は外分泌細胞集団の中に小さな島のように点在しており、インスリンなど血糖値を調節する内分泌細胞が含まれている。