CiRAに来たのは「ご縁」

　中国では臨床医学修士時期、当大学院と連携する中国解放軍総合病院の腫瘍内科で臨床を経験しつつ、基礎研究の研究室にも入っていました。僕の師事していた先生は日本の留学経験がありました。その先生から日本への留学を勧められたことがきっかけで、国費外国人留学生制度に応募して日本に留学できることになりました。

このチャンスを活かしたい

　当時の主ながん治療は抗体医薬（腫瘍細胞の目印にくっ付いて腫瘍細胞だけを弱らせることができるように加工された抗体）で、ちょうど細胞医薬（腫瘍細胞だけを攻撃するよう加工された免疫細胞）への移行期でした。また、山中先生がノーベル賞を受賞されたので、日本ではiPS細胞が注目されていました。iPS細胞、免疫細胞（細胞医薬）、がん治療。これらのやりたい分野がすべて繋がるのは金子研究室でした。しかも師事していた先生の、そのまた先生が金子先生と仲が良かったんですよ。

　全部ご縁ですね。それで金子先生に面接していただいて「意欲があっていいですね！博士課程の受験に合格したら研究室に入っていいですよ」と。最初は研究生で、京大の院試を経て大学院生になり、金子研究室に10年ぐらい所属しています。

日本での生活は？

　言語の壁は少しありました。日本に来て日本語が喋れないと、深くコミュニケーションが取れず、生活上も研究上もとても損が多いんですね。でも、国費留学生として渡日前に、制度の一環として10ヶ月間の日本語教育を受けたおかげで、そんなに日本語で困ることはありませんでした。受験勉強をしながらの日本語教室は大変でしたが、参加して良かったと思います。

　研究以外では、京都などの四季折々の美しい自然と歴史あるお寺などをあちこち巡り、とても楽しんでいます。健康的で美味しい食べ物もいっぱい食べて、充実した日々を過ごせて満足しております。

やりたいことが盛りだくさん！

　僕はiPS細胞をゲノム編集（狙ったDNA配列だけを削除・挿入）して、移植先から拒絶されず且つ腫瘍細胞を攻撃できる免疫細胞に育てて、がん治療が必要な患者さんへ移植するための研究をしています^（＊）。今は実験段階なのですが、研究成果を実際に患者さんの治療に使えるようにするまでにはまだ長い道のりがあります。効果があるか、使っても安全かなどたくさんのことを確認しないといけません。特にゲノム編集した細胞は安全性の検証が非常に重要です。

　研究においても困難があったり壁にぶつかったりしますが、CiRAでは研究室間で協力し合える体制があるので、応援し合って乗り越えられるし、ポジティブループに入れる感じがします。皆さん優しいですし、自分の知識を共有したい気持ちがあるので、他の研究室であってもすぐに一緒に考えてくれます。

　研究をやっていて嬉しいことですか？自分の思った通りの結果が出た時、自分の判断が正しかったと感じる時はとてもワクワクしますね！以前、みんなが帰った後に１人で残って解析していたんですが、思ったとおりの結果が出て、興奮してじっとしていられず実験室内をぐるぐる歩き回ってしまいました。

　今後の目標は、免疫原生を編集した（免疫反応の引き金になる特徴を改変した）iPS細胞由来の免疫細胞に腫瘍抗原認識性（腫瘍の特徴を認識する能力）と機能増強のゲノム編集をしてどんな腫瘍でも治療可能にすることです。免疫細胞にもいろいろな種類がありますが、僕が作製したT細胞だけでは全てのがん治療に対応しきれません。そのため他の免疫細胞についてもゲノム編集をしたiPS細胞から作製し、さまざまながん治療に対応できるようにしたいと考えています。

　もう１つは免疫原生を編集したiPS細胞由来の免疫抑制系細胞を用いた自己免疫疾患（自分の細胞を敵と認識して攻撃する疾患）の治療にも応用できるように頑張りたいと思っております。

　研究以外では、助教の立場でも学生の教育に力を入れているので、将来は自分の特徴ある研究をして研究室を持って独立できるようにチャレンジしてみたいと思っております。

（取材・執筆：CiRA堀田研究室 テクニカルスタッフ 坪倉由美）